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武装した北朝鮮兵士が中国に侵入か…現地に緊張感

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
昨年3月、中国軍に捕らえられた脱北兵士(赤丸内)

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士1人が武装したまま脱走し、中国領内に侵入したと韓国のMBNが報じた。

事件が起きたのは先月30日。北朝鮮の両江道(リャンガンド)金亨稷(キムヒョンジク)郡から、兵士1人が国境を流れる鴨緑江を渡り、中国吉林省の臨江市に逃げ込んだというものだ。事件現場に隣接する長白朝鮮族自治県の当局は、住民に次のような内容の携帯メールを一斉送信した。

住民4人殺害も

「小銃1丁と弾薬6発を持ち武装した北朝鮮の兵士が臨江市六道溝鎮から国境を越えて中国に逃げ込み、県内の七道溝村付近で姿をくらました。各村は住民に警戒を呼びかけ、民兵をパトロールさせ、不審人物を見かけたらすぐに通報すること。特にこの数日は要警戒。夜は出歩かず、戸締まりをしっかりとせよ。」

デイリーNKジャパンは従来、この手の情報については複数の情報源から確認を取って報道してきたのだが、今回は、MBNが上記メールを確保していることから、引用報道することにした。

(参考記事:脱北兵士が朝鮮族を殺害 緊張高まる中朝国境最新レポート

(参考記事:人質を盾に抵抗する脱北兵士、逮捕の瞬間!

この脱北が起きたのは、朝鮮労働党中央委員会の李スヨン副委員長が中国を訪問する前日。当局は、万が一中国人住民が危害を加えられる事件が起きれば、中朝の対話ムードに水を差しかねないという危機感を持っているようで、国境地帯は普段以上の緊張感に包まれているようだ。

中国メディアは、3日午前現在、この件を一切報じておらず、中国版Twitter微博にもこの件に関するツイートは見られない。

中朝国境地帯では、脱北兵士による事件が相次いでいる。2014年の年末に、吉林省延辺朝鮮族自治州和龍市で、脱北兵士が食べ物欲しさに朝鮮族の住民4人を殺害する事件が起きている。2015年3月にも同様の事件が起きている。

また、国境地帯にある食堂に北朝鮮軍兵士がやってきて、食べ物や酒、タバコをねだる事態が頻発している。

(関連記事:脱北兵士の物乞いに悩まされる中国の住民たち

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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