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北朝鮮シンパのスペイン人男性が武器取引で逮捕…北の公務員の肩書も

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
アルジャジーラに出演したベノス氏

日本には、北朝鮮の文化をこよなく愛する北朝鮮マニア、俗にいう「チョソン・クラスタ」と称される人々がいる。ところが、北朝鮮から遠く離れたスペインに、チョソン・クラスタを遙かに越える北朝鮮シンパが存在した。

しかも、この人物、武器の違法取引に関わった容疑で逮捕されていた。一体何者なのか。

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スペインのエル・ムンド氏によると、「北朝鮮初の外国人公務員」とも称されるのは、アレハンドロ・カオ・デ・ベノス氏。ベノス氏が北朝鮮の公務員と呼ばれる所以は、彼が北朝鮮の対外文化連絡委員会の特使と、スペインの朝鮮親善協会の委員長を務めているからのようだ。

ベノス氏は、朝鮮一(チョ・ソニル)という朝鮮名を持ち、1年の半分を平壌で過ごし、海外からの訪問団や投資の誘致を行っていた。海外メディアの取材にも積極的に応じ、北朝鮮の体制を擁護する発言を続けてきた。

(参考記事:【動画あり】北朝鮮シンパのスペイン人男性逮捕

ところが、ベノス氏は、武器の違法取引に関わった容疑でスペイン当局に逮捕された。スペインの治安警備隊は、武器密売組織に対する全国的な摘発作戦を行い、ベノス氏の自宅から銃火器を発見し、本人と42歳のルームメイト、ムルシア在住の武器密売組織の中心人物など、12人が逮捕された。武器の違法取引が、北朝鮮と関連したものであるかは明らかになっていない。

貴族の末裔

さらに驚かされるのは、ベノス氏が貴族の末裔らしきこと。エル・ムンド紙によると、ベノス氏は、自らの家柄に反発し、極左思想に傾倒。いつしか、北朝鮮へのシンパシーへとつながっていったという。

日朝両国は、国交こそないものの、長きにわたって政治・文化的に交流していることから、チョソン・クラスタのような好事家が生まれてくる土壌はある。ただし、北朝鮮とスペインは2001年に国交を結んで、まだ15年しか経っていない。それにもかかわらず、ベノス氏ほど北朝鮮の思想に染まり、金正恩体制に忠誠心を持つ人物は極めて珍しいだろう。

ベノス氏が、金正恩体制に骨の髄まで忠誠心を持つ一方、北朝鮮体制に見切りをつけて逃げ出す国民もいる。

北朝鮮は、世界各国で外貨稼ぎのため、合法非合法問わず様々なビジネスを行っている。本来、国家のエリートである外交官たちでさえも、本国へ送る忠誠資金を稼ぐため、こうした違法ビジネスに手を染めなければならない。こうしたことにストレスを感じて、脱北を選ぶ外交官が出始めている。

(参考記事:金正恩氏の「バイアグラ資金」が盗まれている

外交官ではないが、北朝鮮レストランの美貌のウェイトレスたちは、比較的エリート家庭に育った子女たちだ。北朝鮮レストランでは、厳しいノルマ達成のために売春を強いられ、そうした状況から逃れるため、脱北するケースもある。5月には13人、6月には3人と、北朝鮮レストラン従業員の脱北が相次いでいる背景には、北朝鮮国民でさえも、金正恩体制に展望を見いだしていない背景があるといえよう。

(参考記事:中国の北朝鮮レストランで「強制売春」説が浮上

ベノス氏は、相当イデオロギー的に北朝鮮に共鳴していたようだ。ただし、北朝鮮当局にとって、ベノス氏は体制を宣伝するために利用するだけの存在だったのかもしれない。いずれにせよ、表には出てきていないが、世界には、ベノス氏のように北朝鮮に傾倒する人物が、まだまだいるのかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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