国連が金正恩氏の「犯罪記録」を粛々と集めている
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が北朝鮮の人権状況を監視するため、韓国・ソウルに北朝鮮人権事務所を開設してから23日で丸1年になる。
同事務所の役割は、北朝鮮の人権状況を監視、記録し、重大な人権犯罪の証拠を保存することだ。
虐殺事件も
北朝鮮の人権問題を担当する国連のダルスマン特別報告者は今年3月の国連人権理事会で、金正恩党委員長ら北朝鮮の指導者を「人道に対する罪」に問う可能性を指摘しながら、この問題の国際刑事裁判所(ICC)への付託にも言及。理事会はこれを受けて、法的手段を探るための専門家グループの立ち上げを決議した。
ソウルの人権事務所が集める証拠はもちろん、ここに生かされることになる。
北朝鮮の体制による人権侵害がいかに凄惨なものであるかは、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)に収められた数々の証言からもうかがい知ることができる。
(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態)
(参考記事:「まるで公開処刑が遠足のようだった」…北朝鮮「人権侵害」の実態)
それでも、この報告書が人権侵害のすべての側面を網羅しているわけではない。北朝鮮では、人権侵害を通り越した虐殺事件や、ムリな工期設定による大規模な労働事故なども起きている。
(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」)
そうした出来事については、もちろん情報公開などされていないから、複数の脱北者の証言を総合しなければ全容を描くことができない。
(参考記事:橋崩落で500人死亡の「地獄絵図」…人民を死に追いやる「鶴の一声」)
そこで人権事務所は、2月から韓国に居住する北朝鮮脱出住民(脱北者)にインタビューを行い、北朝鮮における人権犯罪の調査を行っている。
こうした事例は、いまだ国際社会で広く知られるには至っておらず、情報が共有された時の衝撃は相当に大きなものになるだろう。
それだけに、北朝鮮は同事務所の開設を受けて猛烈な非難キャンペーンを繰り広げた。朝鮮労働党機関紙の労働新聞などは、「北朝鮮人権事務所がソウルに巣くったことによって、北南関係は、最悪の破局を迎えることになった」などとしながら、「反共和国人権騒動の終着点は、戦争だ」とまで言い切っていたほどだ。
そもそも、北朝鮮が国連制裁をものともせずに核開発に突き進む背景には、人権問題で日韓や欧米により追い詰められ、主要国との関係改善に絶望していることがある。
金正恩氏らに「人道に対する罪」を問うための証拠集めは今後も粛々と続くだろうが、いずれ北朝鮮が、過激な報復に出てくる可能性も捨てきれない。