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金正恩「処刑部隊」トップに「旧日本軍の血統」説が浮上

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金元弘氏(左)と金正恩氏(右)

北朝鮮の金正恩党委員長の側近中の側近が「親日派」の子孫だという説が出てきた。

韓国の北朝鮮情報サイト「ニュー・フォーカス」は、北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部」のトップである金元弘(キム・ウォノン)氏の母方の祖父ホン・ジョンウ氏が、日本の植民地時代に憲兵分遣所の補助員として勤務していたと報じた。金元弘氏が親日派だったという記録は、内部の幹部文書に詳細に記録されているという。

日本軍OBが作った空軍

金元弘氏が部長を務める国家安全保衛部は、ナチス・ドイツのゲシュタポのような治安機関であり、多くの幹部の粛正、そして処刑の実行部隊として権勢を振るっている。さらに、悪名高き政治犯収容所の管理も行っている。まさに、北朝鮮の人権侵害を象徴する機関のトップであり、今の北朝鮮で最も恐れられ、同時に最も恨みを買っている人物、それが金元弘氏だ。

(参考記事:北朝鮮の「公開処刑」はこうして行われる

(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態

金元弘氏は、日増しに強まる金正恩式恐怖政治の中心人物であり、正恩氏の側近中の側近だ。それだけに、北朝鮮では「変節者(裏切り者)」と称され、忌み嫌われる「親日派」の子孫だとすると、スキャンダルになりかねない。

ただし、ニューフォーカスが明らかにした「金元弘親日派説」は、確固たる証拠がないことから、否定する意見もある。また、金元弘氏が親日派の系譜を継いでいるとするなら、そもそも金正恩氏の側近になりえないという反論もある。

しかし、「金元弘親日派説」の真偽はともかく、北朝鮮体制の中枢に親日派と見られても致し方ない人物がいたのも事実である。

正恩氏の祖父も

例えば、北朝鮮空軍の「生みの親」とも言える軍人が、名古屋航空兵学校を卒業した旧日本軍パイロットであったことはあまり知られていない。金日成氏は軍創設当時、陸軍と海軍の要職には抗日パルチザン派を登用したが、さすがに特殊な技量が求められる空軍においては、日本軍で高度な経験を積んだ人材を無視できなかったのだ。

(参考記事:北朝鮮空軍創建の主役は、旧日本軍の操縦士出身

また、金日成氏の実弟である金英柱(キム・ヨンジュ)氏は、関東軍の通訳をしていたと言われている。そうした経歴を持ちながらも、一時期は、金日成氏の後継者候補であり、金正日氏と最後まで後継者の座をめぐり争った。さらに、金正恩氏の実母である高ヨンヒ氏の父親、つまり正恩氏の外祖父の高ギョンテク氏は、日本の陸軍管轄工場で働いていた。

(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈…すべては帰国運動からはじまった

いずれの経歴も当時の時代背景からすれば、なんら恥じることはないが、「親日派」を清算したと主張する北朝鮮の尺度からすれば問題大ありだ。しかし蓋を開けてみれば、北朝鮮政権内に「親日派」の子孫は実在したのだ。それにもかかわらず、韓国や在日コリアンの一部からは、「親日派を清算した北朝鮮は、清算できなかった韓国よりも国家として正当性がある」という実に身勝手で、虚しい主張がなされることがある。

繰り返すが、日本の植民地時代に多くの朝鮮人が日本となんらかの関わりをもっていたことは否定できない。南北共に、代をさかのぼってまで「親日派」として弾圧したり、攻撃すること自体が、極めて偏狭なナショナリズムの発露に過ぎず、結局は、北朝鮮の「偽りの親日派清算」のように自業自得の結果を生み出すのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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