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日韓「対潜水艦戦」共同訓練が示唆する「日本海の危機」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
潜水艦の艦橋上の金正恩氏

海上自衛隊は7月4~7日、神奈川県の厚木基地で、韓国海軍と哨戒機部隊の交流行事を行う。韓国海軍のP-3CK対潜哨戒機が飛来して海自のP-3Cと初の親善飛行を行うほか、各種の共同訓練と意見交換を行うという。

海自と韓国海軍の交流行事は2010年に始まり12年まで毎年開催されていたが、両国関係の悪化に伴いその後3年間は開催が見送られた。今回は4年ぶりの再開となったわけだが、韓国海軍機が日本に飛来するのも初めてということで、なかなか意義深い催しになりそうだ。

北朝鮮に「先制攻撃」も

日本のマスコミは今日までのところ、この件についてほとんど報道していないようだが、韓国メディアの関心は決して低くない。背景にあるのは、北朝鮮による潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、そしてそれを搭載するミサイル潜水艦の開発である。

たとえば朝鮮日報は6月29日付で、「一部の専門家らは、北朝鮮のSLBMの脅威が目に見える形になったことに伴い、有事の際に東海(日本海)で、韓日の海上哨戒機が北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦(SSB)を捕捉する連合作戦を展開するための布石ではないかとも分析している」と報じた。単なる交流行事ではあっても、そこに、将来の「合同作戦」の可能性を見ているわけだ。

さらに分析を加えるなら、北朝鮮の核弾頭を搭載するSLBMの脅威度が増すにつれ、韓国は海自の対潜水艦戦能力に期待するようになっているのだろう。世界で最も信頼性の高い「潜水艦ハンター」とされるP-3の保有機数は、韓国の16機に対して海自は69機。米国以外では世界最大である。

もっとも、自衛隊への期待が膨らんでいるのは米国も同様だろう。何しろ北朝鮮は、米国こそ核ミサイルの標的であると公言しているのだから。

日本の「凄腕スパイ」

そして集団的自衛権の行使に踏み込んだ日本は、昨年合意された日米新ガイドラインによって、米国を狙う弾道ミサイルを撃墜する義務を負っている。現在は地上発射型のミサイルしか想定されていないが、北朝鮮のSLBMが実戦配備され、日本海から発射されかねない危機的な状況が生じたら、海自には北の潜水艦を制圧すべき任務が生まれるのだ。場合によっては、先制攻撃の決断も必要になる。

(参考記事:いずれ来る「自衛隊が北朝鮮の潜水艦を沈める日」

しかしハッキリ言って、日本ではその辺の議論がぜんぜん足りない。というか、まったく議論されていないのに等しい。北朝鮮のミサイル潜水艦開発は、初期において、日本が舞台になっていた経緯もある。

(参考記事:北のミサイル潜水艦開発に「日本企業」の影

つまりは情報戦(諜報戦)で北に出し抜かれてしまったというわけだ。国を守る上で、情報は何より大事だし、視野の広い議論のないところに情報は集まらない。しかし、かつては日本にも、対北朝鮮の情報力で世界に名を知られた凄腕スパイ(公安調査官)がいたが、その人物も組織の論理の中で飼い殺しにされた。

北朝鮮の核・ミサイル開発によって、日本の将来にどのようなリスクが生じうるか、もっと活発に意見交換する空気が必要なのではないか。

(参考記事:【対北情報戦の内幕】あるエリート公安調査官の栄光と挫折

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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