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金正恩氏が「朝鮮半島は爆発前夜だ」と吠える理由

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮が5回目の核実験を強行したことに、米韓が武力示威で対抗しているが、それについて朝鮮中央通信が次のように食ってかかっている。以下は、14日付論評の公式訳である。

米国は、「北の息の根」を完全に止めるための高強度制裁をけん伝する一方、先制打撃のためのB1B核戦略爆撃機2機を13日、南朝鮮地域の上空に緊急出撃させた。(中略)

われわれに対する核先制打撃の機会をうかがう米国とかいらいの特大型の挑発策動によって、朝鮮半島は刻一刻爆発前夜の状態に直面している。

こうした言葉は、基本的に金正恩氏のものであると理解して差し支えない。北朝鮮のメディア戦略は、正恩氏本人が統括していると見られるからだ。そうでなければ銃殺刑にされるのが恐ろしくて、編集幹部らが勝手に正恩氏の「ヘンな写真」を公開できるはずがないからだ。

(参考記事:金正恩氏が自分の“ヘンな写真”をせっせと公開するのはナゼなのか

国民を虐待し過ぎた

それにしても、朝鮮半島が「爆発前夜」にあるとは「どの口が言うのか」と思わざるを得ない。北朝鮮の言い分は、「米国が核で威嚇するから、自衛のために核武装した」というものである。しかしさすがの米国も、理由なく相手を脅したりしない。

実際、ヒラリー・クリントン氏はオバマ政権の国務長官だった2009年7月、「完全かつ後戻りできない非核化に同意すれば、米国と関係国は北朝鮮に対してインセンティブ・パッケージを与えるつもりだ。これには(米朝)国交正常化が含まれるだろう」と提案したことがあった。

インセンティブ・パッケージとは、米国が国交正常化、体制保障、経済・エネルギー支援などを、北朝鮮は核開発プログラム、核関連施設はもちろん、ミサイルなどすべての交渉材料をテーブルに載せ、大規模な合意を目指すことを念頭に置いていたとみられる。

北朝鮮は、これに乗らなかった。なぜか。人権問題がじゃまして乗るに乗れなかったのだ。米国にはブッシュ政権時代に出来た、北朝鮮人権法という法律がある。日本人拉致問題も含め、北朝鮮の人権状況が改善されない限り、米国から北朝鮮への人道支援以外の援助を禁止すると定めたものだ。恐怖政治で国民を支配する北朝鮮の体制にとって、人権問題は体制の根幹に触れるものであり、交渉のテーブルに乗せることなどできるはずがない。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

金正恩体制は、米国に追い詰められて「暴走」しているのではない。祖父の代から自国民を虐待し、公開処刑などで殺し過ぎて闇の世界から出てこられなくなり、絶望の末に暴走しているのだ。

だから、朝鮮半島は米国のせいで「爆発前夜」にあるのではない。自分でも「暴走」の行きつく先が見えなくなった正恩氏が、「自爆前夜」にあるだけなのだ。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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