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金正恩氏のセコい手口に被災地からブーイング

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮で、台風10号(ライオンロック)の影響で、深刻な水害が発生した。死者・行方不明者が数百人と、北朝鮮当局が「解放後初の大災難(建国以来の災害)」と公式にアナウンスするほど、甚大な被害に見舞われている。

金正恩党委員長は、軍を被災地に派遣するよう直々に指示。別の任務にあたっていた主力部隊を急派した。本来なら、金正恩氏の迅速な対応と決断に、賞賛が集まりそうだ。しかし、実にセコいやり方で「復旧資金」を集めようとして、住民の不満を買っている。

過去には橋崩壊で500人死亡も

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、会寧(フェリョン)市や茂山(ムサン)郡など、革命戦跡地が集中している地域、とくに金正日氏の生母である金正淑(キム・ジョンスク)氏の故郷の復旧が、優先的に行われている。

しかし、大半の作業員がショベルやツルハシも供給されず、ほぼ手作業での復旧作業を強いられている。北朝鮮の工事現場などでは安全を無視した無茶な工期短縮が行われ、その結果、過去には悲惨な事故が起きている。今回の現場でも同様の大事故が起こりかねない。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

また、北朝鮮当局は、水害復旧資金に充てるため、「衷情の復旧戦闘」と命名して住民たちから支援金を要求。さらに、市内の中学生たちに「米1kgずつ出せ!」という指示を出した。どうやら、支援金を被災家庭に要求すると、さすがに反発を招きかねないことから、学生たちを通じて支援金を集めようとしているようだ。

中学生男女が「野外」で…

北朝鮮当局は、中央も地方も資金不足にあえいでおり、普段からなにかと理由をつけてカネやモノを庶民に無心する。しかし、ただでさえ厳しい境遇にある被災住民から支援金を集めるのは、いくらなんでもやり過ぎだ。

こんな手口で金を集めても、庶民、とりわけ青少年らの金正恩氏に対する民心は離れる一方だろう。そうでなくても、好奇心が強く情報に飢えている北朝鮮の若者たちは、韓流ビデオや海外映画などを通じて、外の世界を知っている。あまりにも好奇心が強くて、さらには韓流ビデオに触発されて、時には暴走することもあるようだが…。

(参考記事:北朝鮮で「海外ビデオ」が引き起こした少年少女「性の暴走」事件

本来なら核実験の成功を大々的に祝いたいはずの金正恩氏が復旧作業を優先した背景には、核やミサイルではなく、復旧で人民愛をアピールする狙いがあると見られる。しかし、こうしたセコい手口で、庶民にせびっているようでは、彼が望む人民からの愛情を手に入れることはできないだろう。

(参考記事:金正恩氏が「愛情」に飢えている

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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