知られざる日米韓「三つどもえ」の諜報戦
日韓両政府は、23日にも軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結する見通しだ。
GSOMIAでは、軍事情報の機密レベルの分類、情報伝達と破棄の方法、情報紛失時の対策などが決められ、協定締結により韓国と日本は軍事情報を直接共有できる。現在は2014年末に日米韓の3カ国で交わした北朝鮮の核とミサイル関連の軍事情報を共有する覚書(MOU)に基づき、米国を経由して限られた範囲内で情報を共有している。
日本政府も「飼い殺し」に
韓国国防省は、「高度化、加速化、現実化している北の核・ミサイルの脅威などに対し、日本の情報能力を活用することで、われわれの安保利益を高めることができる。北の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に関連する情報を得るのに実質的に役立つと期待される」として、GSOMIA締結の必要性を強調してきた。
もっとも、2012年6月に締結寸前まで行きながら、署名式の1時間前にひっくり返したのも韓国だった。安倍政権の歴史認識に反発する国民感情を意識し、当時の李明博政権が非公開で閣議決定したことが、むしろ「拙速な密室政治」との強力な批判を読んでしまったためだ。
もっとも、適切な情報共有を妨げるのは歴史認識や国民感情だけではない。より強く作用するのは、自国の国益を最優先するエゴだろう。
例えば米国は、衛星情報を小出しにしたり出し惜しみしたりしながら、同盟国の政策をコントロールしているとされる。日本政府が情報収集衛星の保有に踏み切ったのも、背景にはこうした問題があったと言われる。
(参考記事:米国の「シャッター・コントロール」に翻弄される衛星情報)
情報を武器に同盟国や友好国の政策にまで影響を及ぼそうとしているのは、米国だけではない。大量の脱北者との面談調査や続発するスパイ事件などの摘発を通じ、北朝鮮に対するヒューミント(人的情報収集)では圧倒的な実力を持つ韓国の国家情報院(以下、国情院)も同じだ。
国情院はかつて、海上保安庁の幹部を手玉に取り、世論操作を試みていたとされる。この幹部は、海上保安庁(以下、海保)の特殊部隊「SST」と、同庁の公安部門である「警備情報課」を生み出したエリートだったにもかかわらず、日本の情報コミュニティーの「タテ割り体質」に翻弄されるうち、外国情報機関の接近を許してしまったようだ。
(参考記事:「日本初の特殊部隊を創設せよ」特命は海保の若手幹部に下された)
一方、日本はどうか。かつては日本も、北朝鮮に対するヒューミントでは世界の諜報機関から注目されていた時期もあった。だが、今でも「スパイ」や「分析官」として優れた人材がいないわけではないのに、飼い殺しにしてしまっているのが実情なのだ。
(参考記事:【対北情報戦の内幕】あるエリート公安調査官の栄光と挫折)
しかし、日本にはそれでも、北朝鮮の通信傍受を通じた優れたシギント(信号傍受情報収集)能力がある。
日本独自の外交努力では、膠着した日本人拉致問題の打開が難しくなっている今、独自の情報資産をテコに、米韓からもより積極的な協力を引き出すべきではないだろうか。