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中国で逮捕された脱北者30人、強制送還の危機

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

中国からベトナムを経て第三国に脱出を試みた脱北者が、中国公安当局に逮捕された。

中国に在住するデイリーNKの対北朝鮮情報筋によると、中国の瀋陽からベトナムに移動する途中だった脱北者30人余りが、11月25日に中国公安当局に逮捕された。全員が丹東に移送され、北朝鮮に強制送還される見通しで、拷問を伴う取り調べの末、重罰は避けられないと思われる。

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今回の逮捕は、年末年始に向けての脱北者摘発作戦の一環と見られる。

中国と北朝鮮両国の当局は最近、緊密な協議を行い、脱北者を積極的に摘発、強制送還することについて合意に至ったとされる。詳しい合意内容は不明だが、最近に入り大々的な脱北者摘発作戦が行われ、中国側の町中には「通報した者には報奨金を支払う」との横断幕やプラカードが掲げられている。

北朝鮮の国家安全保衛部(秘密警察)は、脱北者の強制送還の費用として、直営の金鉱で産出される金(ゴールド)を中国側に送っているが、これも合意によるものと思われる。

一方、北朝鮮当局も脱北を防ぐために報奨金制度を導入した模様だ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、金正恩党委員長の「千万金をかけてでも、脱北行為を阻止せよ」との指示に従い、国境地域では脱北者の取り締まりが行われ、非常に殺伐とした雰囲気となっている。脱北しようとする人を見つけたら500万北朝鮮ウォン(約6万円、コメ1トンに相当)を支払うとの布告もなされた。

(参考記事:水害被災地に「拷問部隊」を送り込んだ金正恩氏の狙い

以前、国境警備隊員を対象に「脱北者を摘発すれば、休暇を与え、労働党に入党させてやる」という制度を導入したが、あまり魅力的ではなかったのか、効果が上がらなかった。そこで今回は一般住民に対象を広げ、報奨金を払う制度にしたものと見られる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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