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金正恩氏が「公開処刑を禁止する」と指示…その真意は!?

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮の金正恩党委員長が、全国の司法機関に対して「公開処刑を禁止する」との指示を下した可能性が浮上している。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、人民保安省(警察庁)など全国の司法機関に「公開処刑を禁止することについて」という金正恩氏の指示文が伝えられたという。これには「群衆を集めて死刑を行う『群衆審判』『公開銃殺』を禁じる」という内容が書かれていた。銃殺そのものを禁止せよというものではなく、非公開で処理せよという意味だ。

北朝鮮では、「見せしめ」の目的で公開処刑が頻繁に行われてきた。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

生々しい情報

とりわけ金正恩政権になってからはその傾向が強まり、高級幹部から韓流ドラマのソフトを売った一般庶民に至るまで、様々な罪状で公開処刑されている。韓国の国家情報院によると、今年に入ってから9月までに公開処刑された人は64人に達する。

公開処刑禁止の理由について、情報筋は次のように説明した。

「当局は住民を無条件に屈従させるために公開処刑を続けてきたが、弊害も馬鹿にならないと考えているようだ。国際社会に生々しい状況が知られることを恐れて、禁止の指示を下したのではないか」

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

国連や人権団体は、北朝鮮の人権侵害について批判を続けており、金正恩氏を国際刑事裁判所に提訴せよと主張している。これが北朝鮮に対し相当な圧力として働いている可能性が高い。

一方で今回の公開処刑禁止令は、国際社会の視線を気にしたための措置に過ぎず、人権状況の改善は期待できないとの見方もある。

北朝鮮における非公開での処刑は、管理所(収容所)や教化所(刑務所)内で密かに行われる。庶民の間で「絞刑吏」、つまり「縛り首役人」と呼ばれる戒護員(刑務官)は、角材、棍棒、ハンマーで急所を滅多打ちにして処刑する。また、電気ショックや薬物注射による処刑も行われているとの証言もある。

地域では既に「冷血な絞刑吏を集めて『殺人組』を作る」という噂が出回っている。

国連の統計によると、世界195の国や地域のうち、死刑を行っているのは56に過ぎず、死刑廃止は世界的な流れとなっている。死刑を頻繁に執行するだけでも「人権侵害国」との批判にさらされるが、公開処刑となればなおさらだ。世界で公開処刑を行っているのはイラン、サウジアラビア、ソマリア、シリア、アフガニスタン、イエメン、そして北朝鮮の7カ国に過ぎない。

ちなみに韓国には死刑制度は存置されているが、1997年12月以来、執行は停止されており、事実上の死刑廃止国となっている。凶悪事件が起きるたびに、国内では「死刑執行を再開せよ」との声が上がるが、国際的な圧力を恐れてか、死刑執行の停止は続いている。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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