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北朝鮮「死を呼ぶ盗聴」でもなくならない金正恩氏への「ひどい悪口」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

韓国に亡命した北朝鮮のテ・ヨンホ前駐英公使が、ソウル市内の某所で19日に行われた韓国の与野党幹部との懇談会で、次のように説明したという。

北朝鮮では地位が上がるほど、監視が強まり自宅内の盗聴が日常化されている。玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元人民武力部長(韓国の国防部長官に相当)が処刑されたのも、自宅での失言が原因だった――。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

「ブタ」呼ばわり

また、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が22日に伝えたところでは、北朝鮮の高級幹部らは30分単位で監視されているという。

脱北者で、チェコ駐在の貿易会社社長を務めていたキム・テサン氏がRFAに語ったところによれば、総理・副総理クラスの要人ともなると、地方党組織、国家保衛省(秘密警察)、人民保安省(警察)、三大革命小組の4つの組織が30分刻みで動向を把握し、中央党に報告する。

さらに、連隊クラス以上の部隊を率いる軍指揮官たちは、100パーセント盗聴を受けているという。

史上最悪の監視国家である北朝鮮はかつて、ジョージ・オーウェルが小説『1984年』に描いた世界と対比されたりしたものだが、まさにそれを地で行くものと言える。

もっとも、北朝鮮社会の現状は、当局がいくら監視を強めてみても、国の隅々までを見張るのは困難であり、人々の頭の中を覗くのは不可能であることを示しているとも言える。

当局が拷問をしようが公開処刑をしようが、外国のドラマや映画を楽しむ人々はいなくならない。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

また、金正恩党委員長が国民の歓心を買おうと、メディアに露出すればするほど、独特のブラックユーモアで揶揄されてしまう始末だ。

たとえば今年8月、正恩氏は「大同江(テドンガン)ブタ工場(養豚場)」を現地指導した。この現地指導がテレビで放映されるやいなや、正恩氏を「テジ」と呼ぶことが流行りだしたのだ。テジとは、朝鮮語でブタのことだ。庶民らはこの放送を見ながら、喜々として正恩氏をあれこれと揶揄したという。

(参考記事:金正恩氏の「ブタ工場視察」に北朝鮮庶民が浴びせるヒドい悪口

仮に、北朝鮮当局が人の頭の中を覗き見る技術を開発し、正恩氏を一度でも嘲笑ったことがある国民を処罰することに決めたら、どうなるか。たぶん、処罰を逃れられる人はひとりもいないだろう。そうなったら、さすがの正恩氏も恐怖政治を振りかざすことはできない。

恐怖政治に頼る金正恩体制の支配は強力であるようにも見えるが、何かきっかけさえあれば、大きな変化を起こせるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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