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北朝鮮「金持ち女性」たちの密かな楽しみ…お国の指示もそっちのけ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団

「社会的に、髪の毛を長くする現象はなくさなければなりません。(中略)女性たちが髪の毛を腰まで伸ばし、振り乱しているのは朝鮮式ではありません。」

これは、「先軍時代に合った社会主義的生活文化を確立することについて朝鮮労働党中央委員会責任イルクンたちと行なった談話」というタイトルで2003年2月と7月に発表された故金正日総書記の言葉だ。

談話で金正日氏は「理髪所にヘアスタイルの絵や写真を貼り付けて、客が選べるようにすべき」とも指摘している。つまり、決められたヘアスタイル以外は好ましくないということだ。

しかし、ビジネスで中国を訪れた北朝鮮のトンジュ(金主、新興富裕層)の女性たちは、そんな支持はそっちのけで、韓国人経営の美容室で「韓流ヘアスタイル」を楽しんでいる。

(参考記事:北朝鮮に「ブラジャー」がもたらした意識変化

中国の対北朝鮮デイリーNK情報筋によると、北朝鮮に面した遼寧省丹東市内にある「◯◯ヘアショップ」は、北朝鮮マダムのお気に入りの店だ。商品の買い付けにやって来た平壌の商店の関係者や地方のトンジュ女性たちが、ビジネスを済ませ帰国前に立ち寄るという。

オーナーが韓国人で、北朝鮮のトレンドをよく把握しており、高度なテクニックを持っていることが彼女らのハートを捉えた。パーマの料金は4〜500元と非常に高く、丹東の一般市民は手が出ないが、ビジネスで儲けている北朝鮮マダムには充分手が届く。

(参考記事:「牛乳風呂」をたのしむ北朝鮮の上流階級)

ここでカットやパーマをしてもらって帰国すれば、他の女性から羨望の的になるというから、見栄っ張りな北朝鮮の人々は少し無理をしてでもこの店を利用しようとするだろう。中には、わざわざ自分の娘を連れてくる女性もいるという。

少しでも派手なヘアスタイルや服装をすると「資本主義風」と批判を受けるのが当たり前だった北朝鮮。数年前までは、落ち着いたヘアスタイルを好む人が多かったが、金正恩氏の夫人、李雪主(リ・ソルチュ)氏が自由奔放なファッションを持ち込んだ影響で、少し派手目のファッションを楽しむ女性が増えた。「集団」より「個人」を重視する女性が増えているのだ。

(参考記事:整形顔の「北朝鮮セレブ」はZARAとナイキがお気に入り

平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋によると、そのような流れは地方都市にも及んでいる。未婚女性ならず、既婚女性も従来通りの整ったヘアスタイルより、韓国風のものが人気が高いとのことだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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