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「iPhone 6」の転売騒動、まもなく終息か 「中国当局の承認手続きが最終段階」との報道

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

ロイター通信によると、米アップルの新型スマートフォン「iPhone 6シリーズ」はまもなく中国で販売が始まる見通しという。

「正規品、まもなく買えます」と工業情報相

中国の苗工業情報相が同国のポータルサイト「テンセント(騰訊)」に語ったところによると、アイフォーン新モデルの承認審査がまもなく終わる見通し。

同氏は「iPhone 6は承認プロセスの最終段階にあり、あとは時間の問題だ。ネット市民の皆さんは辛抱強く待ってほしい」と述べたという。

アップルは9月19日に、米国、日本、香港、シンガポール、オーストラリアなど世界10カ国/地域でiPhone 6シリーズの販売を始めた。これまでの報道によると、当初中国本土もこれら初回販売国/地域に入っていたが、アップルは発売10日前に突如延期を決めた。

同社はその理由を明らかにしていないが、当局の許可が得られなかったことが原因と見られている。中国国営メディアの新華社によると、アイフォーンの新モデルは「中国強制製品認証(CCC: China Compulsory Certification)」と呼ばれる製品基準適合証と電波免許を取得しているが、ネットワークアクセスの認可が下りていない。

これにより、中国での新モデルの発売は来年にずれ込む可能性かあるとの観測が流れた。今年は日本や米国、香港、オーストラリアなどのアップルストアに多くの中国人が押し寄せたが、その背景にはこうした事情があったと見られている。

税関で数百台の「密輸品」押収

彼らの目的は転売だ。アップルストアの店先には、行列に並んで購入した人から端末を現金で買い取る業者らしき人の姿が見られた。

中国市場に詳しい専門家によると、中国ではアイフォーンを持っていることがステータスで、とりわけゴールドカラーのモデルは人気が高い。これに同国で未発売という条件が加われば、その需要はさらに高まり、闇市場の売値はどんどんつり上がるという。

米証券会社BTIGのアナリスト、ウォルター・ピエシク氏によると、闇市場ではSIMフリー版「iPhone 6 Plus」が4770米ドル(約52万円)で売られていた。

ただ、中国では非正規品を本土に持ち込むこと自体が違法のようだ。香港と隣接する深センでは、税関で数百台が押収された。これらは自動車のひじ掛けや、お茶やコーヒー、菓子の箱の中など、あの手この手の方法で隠されていたという(米コンピューターワールドの記事)。

新華社、思惑含みの報道

一方で、外国製品への人気の高まりを好ましくないと考えたのか、新華社のニュースサイト「Xinhuanet(新華網)」は、iPhone 6シリーズの闇市場における価格が急落していると伝えている。

例えば先週時点のiPhone 6の価格は、最も安いモデルで1万3000元(約23万円)、iPhone 6 Plusは同2万元(35万円)だった。これが今週は、それぞれ7200元(12万7000円)と1万1000元(19万5000円)に下落したという。

ただ、これら新華社の報道には、意図があるように思える。

同国では米国家安全保障局(NSA)の元契約職員、エドワード・スノーデン氏が米当局の情報収集活動を暴露して以来、外国、とりわけ米国のテクノロジー企業に対する警戒を強めている。

昨年のモデル「5s」と「5c」は、中国本土でも米国、日本などと同じタイミングで発売された。ところが今年7月、国営テレビの中国中央電視台(CCTV)が「アイフォーンは中国の安全保障を脅かしている」などする番組を放送し、非難した。また8月には、政府機関が購入するIT関連機器からアップルの製品が締め出されたとの報道もあった。

中国では、国産端末と国産基本ソフト(OS)の開発、普及に力を入れている。一連の報道、そしてアイフォーン発売の遅れは、こうした当局の思惑が関係しているのではないかと見られている。

もし、当局が中国国民の関心をそらすためにアイフォーンの認可を躊躇していたのであれば、結果は裏目に出たと言えるだろう。今当局がこの大騒動を終息させるために取れる最も効果的な対策は、iPhone 6の正規販売を開始することだと指摘されている。

JBpress:2014年9月25日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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