Yahoo!ニュース

アマゾンのドローン配送「プライムエアー」、ついに本格実験開始

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米アマゾン・ドットコムは7月25日に、英国政府と連携し、ドローン(無人機)の飛行実験を行うと発表した

英国で3つの実験開始

同社は英国運輸省民間航空局(Civil Aviation Authority:CAA)が主導する、省庁間の垣根を越えた政府組織と提携した。これにより開発を進めているドローンを使った商品配送システム「Amazon Prime Air」の実験を行う。

アマゾンによると、今回の提携により、(1)農村や郊外における、操縦者の視界を越える範囲の飛行実験、(2)障害物感知・自動回避機能の実験、(3)1人の操縦者が複数のドローンを操縦する実験、が可能になる。

一方で、CAAはこれらの実験結果を今後の規制策定のための情報として利用したい考えという。

ドローンの新型試作機

今回の発表に先立つ昨年11月にアマゾンはドローンの新型試作機を公開した

このドローンは回転翼と推進用プロペラを備えており、離陸時には垂直方向に飛行し、一定の高度に達すると水平飛行する。

そして目的地に近づくと顧客に通知を送信。顧客の敷地内に障害物がないかなどの確認をする。その後顧客の敷地内に置かれたアマゾンのロゴが入った目印のシート上に垂直着陸する。最後にシートの上に荷物を下ろし、再び垂直離陸する。

このドローンは高度400フィート(約122メートル)までの上昇が可能。アマゾンは15マイル(約24キロメートル)以内の範囲で30分以内に商品を届けることを目指している。

さらにこのドローンは気球などのほかの飛行体や建物、人間といった障害物を感知して自動回避する機能も備えている。

アマゾンに立ちはだかる規制の壁

しかしニューヨーク・タイムズによると、こうした商用ドローンの飛行は米国で禁止されている。

今年6月に米運輸省連邦航空局(FAA)が発表した商用小型ドローンの運用規則では、飛行が許されるのは操縦者の視界の範囲内に限られ、1人が同時に複数のドローンを操縦することを禁じている。

また飛行時間帯は日の出30分前から日の入り後30分まで。高度は400フィート以下で、時速は100マイル(約160キロメートル)まで。さらに、地上にいるドローンの飛行に直接関係のない人の上を飛ぶことを禁止している。

規制緩和に慎重姿勢の米当局に圧力

前述のニューヨーク・タイムズの記事は、アマゾンの狙いは配送コストの削減と迅速な配送だが、同時に今回の英国における実験は、米国などの運輸当局に、規制緩和の圧力をかけることになると、伝えている。

アマゾンやグーグルなどのテクノロジー企業は以前から米当局に対し、ドローンの商用飛行に関する規制緩和を求めていたが、当局は安全上の理由からドローンを使った商品配送を認めることに慎重だ。そうした中、アマゾンはその研究開発の多くを英国、カナダ、オランダに移している。

アマゾンは今回出した発表資料で次ぎのように述べるにとどめている。

「今回の実験はドローンの運用ルールや安全規則に関し、何が必要であるかを確認するものになる。そしてこれがドローンの業界を前進させることになる」

しかしニューヨーク・タイムズの記事は、アマゾンは次ぎのようにも述べ、ドローン飛行の規制緩和を強く要求したと伝えている。

「今回の英国における実験の成功が、慎重な態度を取る米国をはじめとする国の規制緩和につながることを期待している」

JBpress:2016年7月28日号に掲載/原題「アマゾン、ドローンの飛行実験で英政府と連携 規制緩和に慎重姿勢の米当局に圧力」)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

小久保重信の最近の記事