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「貨物版Uber」でAmazonが物流をクラウド化

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米ビジネスインサイダー米ウォールストリート・ジャーナルなどの海外メディアの報道によると、米アマゾン・ドットコムは、輸送トラックを配車するためのモバイルアプリの技術を開発しているという。

Uberの貨物トラック版

これは、荷主と輸送トラックをマッチングさせるアプリで、米ウーバーテクノロジーズ(Uber Technologies)などが手がける配車サービスのようなことが可能になるというもの。

実現すれば、従来かかっていた15%ほどの中間業者の手数料を省くことができる。アプリは来年の夏にも利用できるようになる見通しだとビジネスインサイダーは伝えている。

そして、ウォールストリート・ジャーナルによると、アマゾンはこれを使うことで、例えば港から物流センターに貨物を輸送したり、倉庫から宅配施設に商品を運んだりすることが、自らの手配で可能になる。

さらに、配車ネットワークが拡大すれば、その輸送能力を自社で扱う荷物に使うだけでなく、他社にも提供できるようになる。

アナリストらは、この仕組みが成功すれば、アマゾンは手数料収入を得ることができ、新たな収益源がもたらされると指摘している。

自社ブランドのトレーラー、数千台導入

アマゾンは昨年12月、同社の倉庫など米国における施設間で商品を輸送するために、自社ブランドのトラックを数千台導入すると発表した。

ただしアマゾンが所有するのは、同社のロゴが描かれたトレーラー部分のみで、トレーラーを牽引するトラクターとドライバーは外部企業に委託している。

またこのトレーラーは顧客への配達には使わず、同社は従来どおり米郵便公社(USPS)や米UPS、米フェデックス(FedEx)といった企業と提携している。

自社ブランド貨物航空機「Amazon One」

一方で同社は今年8月、「Amazon One」と呼ぶ自社ブランドの貨物航空機を利用した輸送業務を始めたことも明らかにした。同社は2社の大手貨物航空会社とボーイング「767-300」を40機リースすることで提携しており、Amazon Oneはこの機体を使っている。

このほか同社はドローン(小型無人機)を使った配送システムを開発しており、このほど英国の一部の顧客を対象にした商品配達を開始したと発表した。

(参考・関連記事)「英国で世界初のドローン配達、Amazonが実際の動画を公開

そして、今回のアプリが実現すればアマゾンはこれまで外部に委託していた物流の中間業務をも自社で手がけ、その業務に自社開発のテクノロジーも導入できるようになる。

これにより、アマゾンは自社の輸送業務を拡大し、その余剰輸送能力を外部企業に提供できるようになると、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

クラウドコンピューティング事業がモデルに

アマゾンにはクラウドコンピューティング事業を手がける「Amazon Web Services(AWS)」という子会社がある。同社はこの事業の設備や技術基盤を自社eコマース事業のインフラとして使っているが、外部企業にも提供して収入を得ている。

ウォールストリート・ジャーナルによると、その顧客には米政府機関や大手IT、ネット企業など多岐にわたり、海運・ロジスティクスサービスを手がける米マトソンも顧客の1社という。

このクラウドコンピューティングの事業は、アマゾンが現在拡大しつつある物流ネットワーク事業の良いモデルとなる可能性があると同紙は伝えている。

JBpress:2016年12月21日号に掲載/原題「アマゾン、自前の貨物輸送を強化か 今度は貨物トラック用の配車アプリ開発中との報道」)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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