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期待外れのウエアラブル市場、要因は普及進まぬスマートウオッチ

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
Apple CEO speaks during a media event.(写真:ロイター/アフロ)

米国の市場調査会社、eマーケターがこのほど公表したウエアラブル機器の利用実態調査によると、米国における2016年の推計利用者数は3950万人にとどまり、同社が当初予測していた6370万人を大きく下回ったもようだ。

予測を大幅に下方修正

これに先立つ一昨年10月、同社は2016年のウエアラブル利用者数の伸び率が60%になると予測していた。しかし最新のデータを分析したところ、そうはならず、わずか24.7%にとどまる見通しとなった。

また2016年の米国成人人口に占めるウエアラブル機器の利用者数比率は15.8%にとどまる見通し。この数値は2020年になっても20%程度で、大きな伸びはないと同社は見ている。

その理由はスマートウオッチが当初予測していたような成長を遂げていないからだという。

同社のアナリスト、キャシー・ボイル氏によると、米アップルが「Apple Watch」を発売する前からリストバンド型フィットネストラッカーがこの市場で最優位に立つ製品カテゴリーだった。

消費者を対象に行ったアンケート調査では、ウエアラブル機器に対する消費者の興味は一貫して健康管理やフィットネス機能が中心で、そうした人々は価格に敏感であることも分かった。

そして、その後Apple Watchをはじめとするスマートウオッチが登場し、健康/フィットネスにとどまらない機能を提供した。

しかしスマートウオッチには、スマートフォンの機能と重複する点が多く、これぞと言う明確な利用目的がないという。スマートウオッチはその価格の高さも手伝い、期待されていたように急速な成長を見せていないと、ボイル氏は述べている。

普及の中心は若年層、フィットネストラッカーが人気

一方で、米国のウエアラブル機器利用者を年代別に見ると若年層が多いことが分かるという。

年代別ウエアラブル利用者比率(予測)出典:eMarketer
年代別ウエアラブル利用者比率(予測)出典:eMarketer

同社が予測する2017年における18〜34歳のウエアラブル機器普及率は約30%。これが35〜44歳では25.3%、45〜54歳では14.5%となる。ちなみに、55〜64歳の層では6.3%、65歳以上では4.6%にとどまり、米国成人全体では17.6%になるという。

同社によると、若年層が利用するウエアラブル機器はフィットネストラッカーが中心。フィットネストラッカーは価格の低さに加え、明確な利用目的を示している点がこの年齢層の理にかなっていると、eマーケターの別のアナリスト、モニカ・パート氏は述べている。

最もウエアラブル機器が普及している年齢層でも、主として利用されるのはフィットネストラッカーであり、「スマートウオッチは今のところアーリーアダプター(早期導入者)の域を出るほどの成長を見せていない」と同社は結論付けている。

フィットネストラッカーは女性利用者が増加中

なお、eマーケターはリポートの最後で、利用者の男女比率に変化が表れている点が興味深いとも報告している。

それによると、ウエアラブル機器のアーリーアダプターは主に男性だった。しかし今はフィットネストラッカーの伸びとともに女性利用者が増加している。2018年にはさらに女性が増え、今ある男女比の偏りは縮小していくと同社は予測している。

つまり、ここでも主役はフィットネストラッカーであり、スマートウオッチは今のところ、ウエアラブル機器の市場分析といった観点では、影が薄い存在と言えそうだ。

JBpress:2016年12月28日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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