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メッシとロナウドはどちらが優れているか?CL頂上決戦へ!?

小宮良之スポーツライター・小説家
FIFAバロンドール、授賞式(写真:ロイター/アフロ)

今シーズン35節終了時点で、リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドは40得点以上を叩き込み、ハイレベルな得点王争いを続ける。1試合1点というのは、かつて新記録的響きがあったが、二人はそれを当然のことのようにやってのける。不世出の選手が、同じ時代に生まれたということなのだろう。世界最高の選手を決めるFIFAバロンドールでは、(前身のバロンドールから)過去メッシが4度、C・ロナウドが3度としのぎを削る。

佳境に入ったチャンピオンズリーグでは、所属するFCバルセロナとレアル・マドリーが準決勝に進出しており、勝ち上がった場合、決勝で相まみえることになる。

今から2年半ほど前だったろうか。

「メッシ、クリスティアーノ・ロナウドはどちらが優れているか?」

スポーツ雑誌でそんな取材検証ルポを書いたことがある。どちらかに有利になってしまわないように、取材現場は中立地を選んだ。それぞれの所属クラブのお膝元となるバルセロナとマドリーは避けた。

はたして、結果はどうだったか?

思いの外、大差が付いてしまった。検証する余地がないほどに。

「メッシ」

ほぼ全員がそう答えたのだ。

現役選手、すでに引退した選手、指導者などに話を聞いたが、彼らは口を揃えてメッシを賛美していた。

「メッシは山猫、豹、猛禽類・・・様々な猛獣の能力を併せ持ったような選手。人間が戦うには難しい相手だ」

そんな証言もあったように、取材した人たちは"人ではない"という印象を持っていた。話を聞いた選手や元選手は、いずれもトップリーグでプレーした猛者ばかり。その彼らから見ても常軌を逸した才能なのだという。

「僕はジダン、ロナウド、フィゴ、C・ロナウドらとプレーしてきた。しかし、メッシだけはなにか違う。あらゆることを簡単そうにやってのける、ときに不可能なことさえもね。路地で友達とボールを蹴っているようだ。とても信じられないよ」

マドリーの象徴だったラウール・ゴンサレスさえも、メッシに対して賞賛の声を惜しんでいない。

「クライフやマラドーナという伝説と並ぶのがメッシ。C・ロナウドはそのメッシに比較される選手」

これはコロンビアの名将であるマツラナの言葉だが、一つの結論と言えるだろう。クライフやマラドーナでさえも、メッシには及ばないのかもしれない。

では、メッシのなにがそこまで優れているのか?

「メッシは敵の嫌がるスペースへ巧妙に入る。そこで周りと連係する力が人並み外れて高いのさ。プレーの効果を倍増させられる。個人で打開できるにもかかわらず、ね。そこがC・ロナウドとの差だろう」

そう語ったのは、レアル・ソシエダの主将として何度もバルサと対戦したミケル・アランブルだった。

「"最強バルサでプレーしているからメッシは一番"とひねくれた物言いをする人もいる。でも、どこにいようがメッシはメッシで当てこすりもいいところ。例えばC・ロナウドの運動能力やシュートの精度はすごい。でも、メッシは全ての面でレベルが高いんだ。例えば僕の昔のチームメイトのデ・ペドロは左足クロスだけは世界で1,2を争い、そこだけはメッシは同等だが、彼はクロス以外にドリブルもシュートも驚異的。完璧な選手だね」

メッシの真骨頂と言えるプレーの一つとして、右サイドから左中央にドリブルで切り込んでシュートする形があるが、これは才能の一端に過ぎない。中を切られても縦を破る形もあるし、変幻自在で、フットボールの申し子のように、中盤に下がってプレーを創り、好機を作り出すパスまで出せる。しかも、ヘディングも上手いし、FKの精度も高い。不得手とするプレーがないのだ。

細部を語るなら、その間合いは特筆に値する。例えばボールを餌のようにわざと晒し、食いついてきた瞬間に抜き去る。その様子は剣術における、相手が自分の間合いに飛び込んできたときに切り捨てる「居合い抜き」で斬る感覚に似ている。“相手の太刀筋を見極める眼”と“するりと抜き放つ太刀さばき”が神業的。ゴールへと切り込んでいく小さな身体に、得体の知れない化け物が憑依しているようにも映る。

そしてメッシは、常に進化している。味方のいいプレーをも取り込み、改善できる。 例えばサイドから中央へ、ゴールラインと平行に移動するドリブルをメッシは得意とするが、これはバルサ、マドリーの両チームでリーガを制覇したラウドルップ、フィゴを彷彿とさせる。走力に自信のあるアタッカーはゴールへ突っ掛けるようなドリブルをしがちだが、メッシはあえて真横に持ち込み、相手が誘って裏のスペースにパスを流し込み、寄せてこなければドリブルのコースを見つけ、左足で一撃を見舞う。

技を取り込むと、メッシはオリジナル以上の精度で使える。

言葉にすると陳腐だが、想像すると漫画のキャラクターのようで尋常ではない。

筆者は18才だったメッシをインタビューしたことがある。殺風景なクラブハウスの一室。次世代のバルサの担い手として頭角を現しつつあった少年はソファに腰を下ろすと、もたれかかるようにして浅く座った。決して愛想は良くなかった。ただ、敵意を出しているわけではなく、人とどう接していいのか、戸惑いがあるのだろう。あるいは、サッカー選手でなければ引きこもりになっていたかもしれない。

しかしメッシは決然として言ったのだ。

「僕が勝ちたいと思うのは、ピッチに入ったときだけです。プライベートでは放っておいて欲しいんです。サッカーをするときはどんなにプレッシャーをかけられても気にしませんから。試合だけは、とにかく負けたくないんです」

フットボールの神の子がいるなら・・・。それは彼かもしれない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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