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コパ・アメリカ、ベスト4の指揮官はすべてアルゼンチン人。欧州サッカーも席巻する彼らの統率力とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
リーグアン、マルセイユ時代のビエルサ監督(写真:ロイター/アフロ)

南米チリで開催されているコパ・アメリカ。準決勝に勝ち残ったのは、チリ、ペルー、アルゼンチン、パラグアイの4ヶ国となっている。実は、彼らには一つの共通点がある。

それは、「監督がアルゼンチン人」ということだ。ホルヘ・サンパオリ(チリ)、リカルド・ガレカ(ペルー)、ヘラルド・マルティーノ(アルゼンチン)、ラモン・ディアス(パラグアイ)。アルゼンチン人監督が率いるチームだけが、大会を勝ち進んでいる。

では、彼らは指揮官としてどこが秀でているのか?

12ヶ国の参加国中で6ヶ国がアルゼンチン人監督が率いている点から考慮しても、そのリーダーシップに対する期待度は高い。

「彼らは戦闘力を高めるための触媒になれる」

そうした表現で、アルゼンチン人監督は賞賛されるが―。

アルゼンチンは、個性的なキャラクターを持ったリーダーを過去にも数多く生んできた。

古くはイタリアでカテナチオの始祖となったエレニオ・エレーラがいる。また、選手としての偉大な経歴の持ち主で、若手抜擢において功を為したアルフレッド・ディステファノも高名を馳せる。そして守備システムを確立してメキシコW杯を制したカルロス・ビラルド。攻撃フットボールを掲げてアルゼンチンW杯で優勝したセサル・メノッティも忘れてはならない。

この4人のサッカー監督は、今も戦術や戦略の流派の始祖とすらなっている。彼らに指導を受けた選手たちが、後に監督となって戦術を現代風にアレンジし、進化させてきたのだ。

レアル・マドリーでリーグ優勝を果たしたホルヘ・バルダーノは、教え子の筆頭だろう。アルフィオ・バシーレ監督はアルゼンチンを率い、91,93年と二度のコパ・アメリカ優勝を果たすなど一世を風靡した。さらに、カルロス・ビアンチ、セルヒオ・バティスタ、アレハンドロ・サベーラ、クラウディオ・ボルギ、ダニエル・パサレラなども国内、南米での実績は申し分ない。

そして特筆すべきは、欧州での実績だろう。

「ブラジルは多くの名選手を出したが、名将は誕生せず。海外でトップレベルのチームを率いる監督は一人もいない」

欧州ではそれが定評であり、アルゼンチン人監督の実績は飛び抜けている。それも40代の若手指揮官の台頭が目立つ。

アトレティコ・マドリーを率いるディエゴ・シメオネは、2013-14シーズンにはリーガエスパニョーラ優勝、CL決勝進出を果たした。「1試合、1試合を戦う」という闘争哲学を麾下選手に浸透させている。エドゥアルド・ベリッソはセルタでハイプレスのスタイルを確立し、降格候補を8位に押し上げた。プレミアリーグでトッテナムの指揮を務めるマウリシオ・ポチェッティーノも、ハリー・ケインを覚醒させるなどその指導力には一目が置かれる。

各監督のスタイルは異なるが、アルゼンチン人指導者の共通点は選手に「戦闘」を要求することにある。例えば、バレンシアを2年連続チャンピオンズリーグ準優勝に導いたエクトール・クーペルは、その姿勢が顕著だった。入場前の選手の胸を強く叩いて戦闘意欲を煽り立てる。このパンチが本当に痛い。マジョルカ時代に指導を受けた大久保嘉人は「本当に倒れ込みそうになるほど強く殴られる。気合いは入るけど」と洩らし、原始的な鼓舞が習慣だった。

戦闘準備をさせるのに一家言を持った指導者が、アルゼンチンには多い。それはスポーツ心理学というような上品なものではないだろう。瀬戸際の戦いを続けてきた男たちが、自然と身につけた戦いの極意に近い。

日本サッカー協会が代表監督に招聘しようとしたこともあるマルセロ・ビエルサは、ジョゼップ・グアルディオラも敬愛するロジカルな戦術家である。2014-15シーズンではマルセイユでも攻撃的なスタイルを貫いたが、その理論の根幹を成すのは"野蛮なまでの選手の戦闘力"である。90分間、オールコートでマンマークを行い、しかも攻撃の選択肢を多く用意し、その精度を高めるという作業で、監督は溢れ出るような覇気を持ち、それを伝播する。

そしてアルゼンチン人監督は指導者として選手の経歴に依存せず、常に向学精神を強く持ち、サッカーを言語化する努力を怠らない。シメオネが指導者に転身したとき、書店にある数十冊の戦術書などサッカー関連書籍を購入し、むさぼり読んだというのは有名な話だ。闘魂は持っているだけでは役に立たない。それを豊富な語彙力として伝える、という能力が必要になるし、集団を闘わせるには個々の力を上手く用いる方法論を確立しなければならない。

その結果、采配は機略に満ちたものになる。

2013-14シーズンにバルサの監督を務め、現在はアルゼンチン代表を指揮するマルティーノ。彼はビエルサ監督の指導を選手時代に受けており、戦術的な造詣が深いが、その采配はやはりとことん勝負にこだわる。攻守両面のプレー強度の高さが特長で、絶対的に試合を支配することが理想。実際、2012年にマルティーノが率いたニューウェルスはリーグで最も被シュート数が少なく、2011年にはパラグアイ代表を率いてコパ・アメリカを戦い、一度も勝たずに(グループリーグ3引き分け、決勝トーナメントはブラジル、ベネズエラにスコアレスドローからPK戦など)決勝まで進出した。

もっとも、マルティーノのフットボールは創意工夫が足りず、とりわけビルドアップの人選も、組み立てもOA座なりで、豊富な人材を生かしているとは言い難いが・・・。

「容易に屈服しない」

その点、アルゼンチン人監督の将としての有能さは、今回のコパ・アメリカでも如実に証明されているだろう。そして4人の中のいずれかが、南米の覇者となる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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