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アメリカを封じるなでしこの絆。

小宮良之スポーツライター・小説家

岩清水梓は細身の体型で、華奢な印象すら与える。なでしこジャパンの中でも大柄ではない。身長は161cm。ピッチにおいて戦う場合、高さにも恵まれず、弱点にすらなり得る。

しかし2011年女子W杯、彼女は身長181cmというアメリカ代表FWアビー・ワンバックを堂々と迎え撃ち、勝利している。この一戦はフロックではない。石清水はドイツやスウェーデンの大型FWをも撃退した。それは軽量級のボクサーがヘビー級のボクサーを打ち負かすようなもので、感嘆に近い衝撃を与えるものだった。

なぜ、彼女は小よく大を制するのか?

2011年女子W杯の記憶は、今大会の一つの布石になるはずだった。

「(2011年女子W杯は)私自身、怖さよりも楽しいという気持ちでやっていました。相手エースを“やっつけてやる“と(笑)。ディフェンスとしてはそこが面白いし、誰にも負けたくないんです」

なでしこのDFリーダーは人懐こい笑顔を浮かべ、世界女王になった大会を振り返った。体格差で上回る敵に対し、守備面の合い言葉は「ボールに触らせない」だったという。彼女を中心にした守備陣は最終ラインを高く保ち、中盤から前の選手が積極的なプレスを仕掛けた。高いライン取りは裏を狙われる可能性が高かったが、彼女は「仲間の存在を信じた」と言う。

「ラインを上げることはたしかにリスクがありましたが、前の選手たちが本当に良くボールを追ってくれました。ゾンビかよ、って思ったほどです(笑)おかげで、ディフェンダーはパスコースを限定できて、先を読んだ守りができました」

攻撃陣の奮闘に応えようと、守備陣も一丸となったという。

「大会前はGKを含めた最終ラインがまだしっくりいっていなくて、それぞれ迷いがありました。そんな時、福元さんから『ディフェンスだけで話し合えば?』と提案され、ミーティングをするようになって。クロスを上げさせないのか、縦の突破をケアすべきか、疑問をぶつけ合い、鮫(鮫島)が近ちゃん(近賀)に『右サイドはどうなっている?』と聞いたり、次第に連係が良くなってきました」

そして迎えたドイツ戦、なでしこ守備陣は威力十分の攻撃を完封。結束力は強まった。その絆を彼女が痛切に思い知らされるのは決勝戦の延長、人生初の退場になった後のことである。

「(退場のシーンは)アメリカの選手にあのまま行かれていたらゴールされていたはずで、エリア外と計算していたし、あのプレーに後悔はありません。でも、レッドは誤算でした。ボールに行ったんですが、相手に接触して・・その後は通路で試合をモニターで見ていたんですが、もう祈るしかなかった。だからこそ、PK戦に入ってから海堀がセービングをする姿を見ていたら泣けてきて。モニターに向かって、“おまえ、すげえよ!”って連発していました」

優勝が決まった瞬間、石清水は一目散にピッチへ駆けた。監督やチームメイトと抱擁を交わした後、最後に海堀と喜びを分かち合った。彼女がPKストップを称賛すると、「(退場になっても敵FWを止めたプレー)あれがあったからだよ」と返され、再び涙腺は決壊した。

結局のところ、なでしこは全員での"総力戦"なのだ。それが最後にプラスアルファを生み出す。そこに日本人は奇跡を感じ、感情を動かされる。

4年越しのファイナルも、同じドラマが作られるのか―。

「(2011年女子W杯は)最高の仲間たちで勝ち取った優勝です。ただ、アメリカはやっぱり強かった。実力差はあります。これからもっと自分たちのレベルを上げて、また“やっつけたい”ですね」

澄んだ目で言う彼女が、やけに逞しく大きく見えたのを覚えている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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