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今日、火蓋を切るEURO2016。主役を狙う4人の三十代選手は?

小宮良之スポーツライター・小説家
ロナウドと抱擁するクアレスマ。(写真:ロイター/アフロ)

6月10日、フランスの首都パリ。EURO2016はフランス対ルーマニアというカードで火蓋を切られる。1ヶ月にわたって、ボルドー、リヨン、マルセイユ、トゥールーズなど各都市で熾烈な戦いが行われ、7月10日に決勝戦となる。

「16チームから24チームでの開催になって、巨大化した大会は質が低下するのでは?」

そんな危惧もあるが、欧州サッカーのプレー標準は高く、オランダのような列強国が予選敗退の憂き目にあっているほどだ。

レベルが高いのは疑いようがないが、遠い大陸の戦いをどう見たら楽しめるのだろうか?

才能溢れる選手に注目するのは一つだろう。クリスティアーノ・ロナウド、アンドレス・イニエスタ、ノイアー、ポール・ポグバ、ルカ・モドリッチ、ダビド・アラバ、ガレス・ベイルら各国のエースは主役を担うことが期待される。彼らは想定以上のプレーで楽しませてくれるだろう。

ここでは、ダークホースと言えるような4人の30代選手を紹介したい。紆余曲折を経て、キャリアを続ける中で、一つの節目を迎えている選手たち。この4人は大会を彩る選手になるのではないか。

まず、GKで注目に値するのは、38歳で出場するイタリアのジャンルイジ・ブッフォンである。ロシアW杯も視野に入れている男のゴールキーピングの熟練は、GKたちを唸らせる。アタッカーの動きに対し、迅速に的確にポジションを微修正し、コースを狭める。職人的な動きによって、年齢的な衰えを最小限にとどめている。

「イタリアは伝統的に難局にこそ力を発揮してきた」と元イタリア代表のファビオ・カペッロが語っているように、ブッフォンは試合の分岐点を作れる男だろう。

そしてサイドバックはドイツのラームが代表を引退し、欧州最高のサイドバックの座は空位になっている。もっともその座に近いのは、スペインのファンフラン(31歳)ではないだろうか。

ファンフランは、チャンピオンズリーグ決勝に進出したアトレティコ・マドリーの右サイドを支えている。ボランチやサイドハーフを巧妙に使い、攻め上がる質が高い。守備側が、「二人ファンフランがいる気持ちになる」と嘆くほど神出鬼没である。しかし攻撃的という修飾語はふさわしくないだろう。なぜなら、彼は守備に回ったときも周りを使いながら鍵をかけることができるのだ。

そしてアタッカーとしては、ポルトガル代表のリカルド・クアレスマに活躍する予感がある。32歳と決して若くないが、誰よりも奔放にプレーする。ジプシーの出身ということもあるが、通念に縛られず、即興で感覚的にボールを蹴る。ボールの声を聞けるんじゃないか、と思われるほど、転がるボールを思ったように飛ばせる。

EURO直前のエストニア戦では、2得点3アシストを決めたが、クリスティアーノ・ロナウドへのアシストは左サイドでディフェンダーを手玉にとった後、右足のアウトサイドでファーポストに合わせており、この技術と度胸を持ち合わせる選手は世界にいない。得点も左サイドをドリブルしながら、GKの位置を確認、独特の回転をボールにかけ、ファーポストの角にボールを流し込んだ。

「右足に悪魔が宿っている」と言われるが、彼のプレーには想像を裏切る楽しさがある。スポルティング・リスボン時代はC・ロナウドを弟分として可愛がっており、コンビネーションは抜群。二人だけで得点を狙える。

最後にスペインの35歳FW、アリツ・アドゥリスは今シーズン、リーガエスパニョーラのスペイン人得点王になった。衰えどころか、キャリアハイシーズンを送っている。

アドゥリスが運動神経に恵まれていたのは間違いない。15歳の頃にはスキーのクロスカントリーで全国大会に出場し、サーフィンやスノーボードもかなりの腕前だという。腰が強く、バランス感覚に優れ、落下点を見極める動体視力にも長じている。

しかし今の感覚は、自らの技を日々磨くことで手に入れたものだ。

「自分は他の選手と比べて、成長が遅かった。しばらくは下部リーグを渡り歩いていた。すぐカッとしてしまい、それでうまくいかなかったのかもしれない。でも、自分にいつも不満を持っているというか、満足しないのさ。もっと、と求めてしまう。例えばヘディングの技術も、バレンシアでアジャラと出会い、練習からガツガツ競り合って高められた」

アドゥリスはバスク人選手の中で身長は低いが、リーガでも1、2を争うヘディングの強さを誇る。習熟してきた技術によって叩き込むゴールは、魂が込められた彫像のように美しい。

この4人以外にも、主役になりうる選手はごまんといる。それぞれの意地がぶつかり合えば、火花が出る。迸る熱を多くの人々が浴びる。その時、興奮は頂点に達するだろう。

まもなく、欧州サッカーの祭典が始まる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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