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五輪は完敗。ハリルJAPANのメンバー選びにも気がかりが・・・。

小宮良之スポーツライター・小説家
誰が日本代表監督でも選ばれるべき岡崎と長谷部。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「世界との距離を感じた」

リオ五輪は、そう感想を洩らす選手が少なくなかったが、彼らの多くは健闘を示したと言える。

しかしそもそも、首脳陣の選手選考や試合マネジメントは正しかったのか?

その反省と検証に、日本サッカーの未来はある。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いるフル代表は、9月からロシアW杯アジア最終予選を戦う。率直に言って、監督就任以来、"目端が利く"と唸らされるような選考はない。速いだけ、懸命なだけ、の選手を拾っては投げ出すの繰り返し。ハビエル・アギーレでも半年足らずで、武藤嘉紀を発掘したのだが――。

8月25日にはW杯予選メンバーが新たに発表されるが、厳しい試合に向け、見直しが急務かもしれない。

五輪チームの家族化

五輪の選手選考は控えめに言っても"奇妙"だった。

J1で出場機会が得られていない選手が優先的に選ばれたことは、すでに厳しく指摘されている。OA(オーバーエイジ枠)の選考理由に関しても、疑問が残った。サイドバックという守備のポジションであるにもかかわらず、「攻撃的でスピードがあり、アップダウンに優れる」と枝葉の理由での選考は理解に苦しむ。ストライカーに関しても、過去4シーズンで15得点以上したことがないFWになにを期待したのか?日本サッカーでは得点力不足が指摘されるが、ゴールという仕事を第一にFWを選んでいない。ナイジェリアやコロンビアのOAと比べ、戦力アップになっていなかった。

それだけではない。

例えば遠藤航は代表にも選ばれている選手で、浦和レッズでポジションを確保している。五輪メンバー候補に入るのは当然だろう。アジアを勝ち抜いた折り、キャプテンとしての功績も少なからずあった。しかし今シーズンで言えば、目を引くプレーを見せていない。ボランチとしてのプレーからも遠ざかり、五輪代表テストマッチでもプレーしていなかった。

「リオ五輪は絶対的中心選手」という扱いを大会前からされていたが、彼はネイマールのような飛び抜けた存在ではない。

手倉森誠監督はチームを家族化し、遠藤はその"長男"だったのだろう。アジアではメンバー固定化による結束が武器になったが、世界では返り打ちにされた。この戦略的失策は、プレースタイルや指揮官のキャラクターはまるで違うが、同じメンバーで戦い続けたアルベルト・ザッケローニ監督のブラジルW杯日本代表と重なった。固定メンバーが本番で、意外なまでの勝負弱さを見せた。結束力は高まっても、メンバーがアップデートされず、競争力をなくしていたのだ。

手倉森監督はそれを感知していたのかもしれない。初戦のナイジェリア戦、4-3-3とシステムを変更。てこ入れで対策を練ったが、むしろ餌食にされた。競争力に欠ける、すなわち適応力も欠く選手たちは後手に回った。

外国人監督から見た日本人選手の長所と欠点

ハリルホジッチは選手を固定しているわけではない。しかし、その選手選考、評価基準には違和感がつきまとう。例えば3年連続Jリーグ得点王の大久保嘉人については年齢を招集しない理由にするが、圧倒的な結果を残している選手を選ばないことで、どうしても選考順列がぼやけてしまう。また、ボスニア系フランス人監督は、体脂肪率やスプリント回数や走行距離について言及することが多いが、どこまで本気なのか。スピードやスタミナのある選手を好む傾向は明らかで、それ自体は監督としての趣味嗜好だとしても、フィジカル能力に引きずられすぎている。

日本人サッカー選手の情報量が足りないのはあるだろうが、外国人監督であるハリルホジッチは、日本人選手に対する誤解もあるように映る。

日本人選手は欧州でスカウティングされたとき、おしなべて好意的に見られる。基本的なボール技術を身につけており、アジリティに優れ、勤勉。チームの中に入れて、不和が生じることが少ない。事実、海を渡った多くの欧州組が、入団当初から評判が良く、飛躍が期待される。

ところが戦いの中、必ずしもその長所を出せない。中村俊輔、家長昭博らはスペインで入団直後に評判は最高点に達し、ずるずると落ちていった。この傾向はスペインだけでなく、ドイツにおける宇佐美貴史、山口蛍らも同様だろう。

「これだけのことができるんだから、これもできるはず」と関係者は判断するが、これも、の基本的な戦術、技術、体力がない場合が多い。とりわけ、駆け引きの部分だろうか。

例えばハーフナー・マイクはスペインのコルドバで「日本のイブラヒモビッチ」のような期待感で迎えられた。長身のわりに足下が上手く、ヘディングも強烈。しかしクロスに対してマークを外す動きをしないため、クロスを呼び込めない。高さに甘んじていたのだろうが、スキルやスピードが実戦的でないことが試合ごとに判明した。戦力外の憂き目に遭うのは時間の問題だった。

欧州に長く定着する選手は、ドイツでプレーする長谷部誠のように、どのポジションでも、あるいはどのような局面でも、自分の良さを最大限に出せる。岡崎慎司も、ブンデスリーガからプレミアリーグと環境が変わっても、周りの選手や相手選手の特徴を見抜き、活路を見いだした。言わば適応力だが、日本サッカー全体ではここに問題がある。

結果、外国人監督が日本代表を率いた場合も、起用する側と起用される側で齟齬が出てしまう。そのひび割れは、次第に大きくなるケースが多い。もし、その違和感がW杯アジア予選を戦う中で大きくなっていくとしたら――。ハリルホジッチ率いる日本は苦戦するだろう。

未招集組を見ても、日本サッカーに人材が枯渇したわけではない。

スペイン2部のジムナスティック・タラゴナでプレーするセンターバック、鈴木大輔は現地でその適応力が高く評価されている。テスト入団し、右サイドバックで機会をつかみ、センターバックに定着。複数の欧州クラブからオファーが来るほどだった。試合の中で成長できる選手でもあり、ロシアW杯に向け、鈴木は主力になるべきセンターバックだ。また、JリーグでもFC東京の高橋秀人は国内屈指の戦術的な明敏さを持ち、それを体現するスキルと肉体を持つ。ボランチとして、味方のプレーを動かし、相手のプレーの動きを封じる、という点で、他の追随を許さない。

他にリオ世代でも、橋本拳人(FC東京)、鎌田大地(サガン鳥栖)、中村航輔(柏レイソル)は、厳しいゲームで鍛えられる素質を持っている。

世界と戦う中で強くなっていく日本サッカー。

ハリルホジッチがその舵取りができるのか、注目である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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