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こじらせた「決定力」。本田、香川は"犯人"なのか。

小宮良之スポーツライター・小説家
UAE戦でのゴールを祝う本田、香川(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

ロシアW杯アジア最終予選が幕を開けた。日本は攻め立てながら、思うように得点が奪えていない。清武弘嗣、本田圭佑、香川真司らが空振りしたことが大きな話題になった。シュートは打っても枠に入らず、もしくはGKの正面でブロックされてしまう。

「決定力不足」

言い古されてきたフレーズが、またしても浮かび上がる。

では、日本サッカーにはストライカーがいないのか?

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、Jリーグで最も得点を取っている大久保嘉人、豊田陽平の二人を招集していない。それどころか、プレミアリーグ王者レスター・シティのFWである岡崎慎司をタイ戦では外している。つまり、コンスタントに得点を叩きだしているFWを、使っていない、もしくは使い切れていない。

「ストライカー受難」

それが清武、本田、香川の身に災難として降り注ぎ、決定力不足という結論に達しているとすれば――。

ストライカーは腐った牛乳

ストライカーとは異質な存在である。ピッチ上ではどこかふてぶてしい。さもなければ、ゴールを仕留める行為は成し遂げられない、と腹を据えているようにも映る。その資質に、こんな表現が用いられる。

「Mala Leche」

スペイン語で腐った牛乳という意味だが、転じて「感じの悪い、嫌な人」という意味で使われる。私生活で付き合うとほとほと疲れるが、いわゆる“戦時”においては頼もしい味方となる。ピッチは戦場に近く、平時の状況ではない。相手が人生を懸けて必死に守る堅陣を崩せるか。そこでのせめぎ合いは熾烈で、相手を呑み込む意気の選手が求められるのだ。

「言動からなにからズケズケと厚かましいが、その分、厳しい試合では必ずやってくれると期待していた」

そう周りから言われることが多いのがズラタン・イブラヒモビッチで、Mala Lecheの典型だろう。イブラはチームメイトに呆れられても、愛される。その決定力がチームを救うからだ。また、チーム内に“悪人”がいることで、仲良し集団になることなく、ぴりっとした緊張感を保てる。その効果は覿面。イブラは過去に所属したアヤックス、インテル、バルサ、そしてパリSGと、5ヶ国のクラブでリーグタイトルを取っている。

ストライカーに属する選手たちは、"生来的な殺し屋"にも喩えられる。相手がどう思うか、味方がどう思うか、周りがどう思うか。そんな意識はない。ゴールを仕留める、それだけに集中して"残虐"に引き金を引ける。だから「冷静に蹴り込め!」そんな指導は役に立たない。ストライカーはストライカーとして生まれ、その才能を磨くしかないのである。

逆説すれば、ストライカーとして生まれていない者はストライカーになれない。得点そのものは、ストライカーでなくとも取れる。しかしゴールを託されて挑む、純粋戦士にはなれないのだ。

異質であるストライカーは、集団の中では浮いた存在にもなる。連係面でズレが出る。ボールスキルだけを考えれば、不器用な場合も少なくない。しかし彼らは、ゴールのためのパスコースを適切なタイミングでのランニングで見つけ創り出せ、なにより足下に入ったボールをネットに叩き込める。それは彼らだけの特異な才能なのだ。

「ゼロトップは一つのトレンドだろう。でも自分はトップ下のパサーとして、ストライカーがいてくれる方がありがたかった。彼らはパスの選択肢を与えてくれるし、それをゴールに入れてもくれる。センターバックと駆け引きし、緊張を与え、疲弊させられるし」

そう語っていたのは、昨シーズンで引退した元スペイン代表ファンタジスタ、ファン・カルロス・バレロンである。バレロンはスーペル・デポル時代にリーガエスパニョーラ王者に輝き、欧州チャンピオンズリーグではマンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、ユベントス、ACミラン、バイエルンなど欧州の強豪を撃破する立役者になった。そこで頼りにしたのはマカイ、トリスタンというMala Lecheの権化のようなFWだったという。

偏屈なストライカーほど、頼りになるということか。

岡崎の力を最大限に用いるべき

「豚になれ」

ドイツでは、元日本代表FW高原直泰がそこまで要求されていたことが知られる。がつがつとした欲望を見せろ、ということだろう。

一方で、清武、香川は腐った牛乳にも、豚にもなれない。タイ戦では、原口元気が先制点を決めたが、彼もいわゆるストライカーではないだろう。

2点目を決めた浅野拓磨は気鋭のFWと言える。しかしJリーグでは今シーズンわずか4得点、昨シーズンも8得点。そのスピードがもてはやされている選手で、アーセナルのスカウトにも見込まれたわけだが、技術的には未熟、今はプレー経験の蓄積が必要だろう。激賞されるタイ戦の得点も、ショートカウンターを適切に発動させた長谷部誠の判断は格別だった。

日本代表としてはやはり、プレミアリーグ王者レスター・シティの岡崎慎司を上手く用いられるか。それを優先すべきだろう。今は岡崎にいいタイミングでボールが入っていない。むしろ囮のようにして使われ、周りのMFが得点を狙う形になっている。おそらくは岡崎を戦術軸にするべきで、その場合、ツートップも選択肢に入れるべきだろう。大久保、豊田、あるいは小林悠、ハーフナー・マイクという得点を重ねる"殺し屋"とタッグを組むのは面白い。

その継続の中、決定力不足が解消される可能性はある。

清武、本田、香川らがシュートを外したとき、彼らは必要以上に力んでいた。とくに香川は筋肉が強張っているのまで伝わった。得点の焦燥に駆られていたのだろう。もちろん、香川はボールをコースに入れるスキルはあるだけに、貪欲なストライカーが道を開け放ってくれたときは、自ずと得点数は増える。

決定力不足。

それは自らこじらせているに過ぎず、日本にストライカーがいないわけではない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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