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本田、香川、長谷部の3人を外すのは現実的か?

小宮良之スポーツライター・小説家
代表戦後の本田と長谷部。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

ロシアW杯アジア最終予選、ハリルJAPANはUAE、タイとの連戦でスタートしている。残念ながら、胸のすくようなゲームとはなっていない。1勝1敗という結果もさることながら、プレーに精彩を欠いている。

「アジア全体のレベルが向上した」と擁護する意見もあるが、同時に行われている南米や欧州の予選し合いと比べると、まったく話にならない。世界標準で考えれば、今後に不安が募る内容だった。

ハリルJAPANで大丈夫なのか?

本田圭佑、香川真司、長谷部誠ら代表を支えてきた主力選手たちが、不信感のやり玉に挙がっている。

たしかに、3人のプレーは控えめに言って「不細工」だった。本田は空振りで決定機を逃し、香川は明後日の方向にボールを飛ばし、長谷部も自陣であり得ないミスパスでピンチを招き、UAE戦は失点に絡んでいる。主力選手としては物足りないプレーだった。

しかし本当に、3人を代表から外すのは現実的なのだろうか。

本田、香川、長谷部の実力

タイ戦の後半29分、本田、香川は格の違いを見せている。

本田が右サイドから中に入り、左サイドを駆け上がる酒井高徳に左足でパスを通している。ディフェンスラインの前のスペースを横切りながら、逆サイドの裏に左足でパス。これはバルサのリオネル・メッシも得意とするプレーで、精度こそ本家より低かったものの、本田の感覚も抜群だった(UAE戦も試みようとしたが、酒井のオーバーラップが遅かったり、速すぎてスペースを失ったりしていた)。

そして酒井が、このボールを逆サイドのスペースに入った香川の頭に合わせている。香川は最高到達地点のヘディングで、原口の足下に落としていた。ヘディングの技術も秀でていたが、香川は実に論理的でマークを外しており、完全にディフェンスの裏を取り、横の揺さぶりによって決定機を作っている。しかし、これを原口が空振りで外してしまった。

このワンプレーだけをとっても、本田、香川という二人のプレーレベルはセンスが横溢していた。欧州で戦い続けてきた選手ならでは、と言える。このシーンだけでなく、二人が攻撃を牽引していたのは間違いない。

一方で、浅野拓磨が2点目を入れたシーンは、その快足ばかりが賛美されるが、的確なタイミングで出したのは長谷部だった。キャプテンはセンターライン付近で相手ボールをカットすると、すかさずワンタッチで浮き球を裏に通している。

「縦に速い攻撃」

監督の求める戦術を実践したのは、長谷部だったと言える。長年ドイツでプレーする男は、戦いを重ねる中でチームとしての方針を細かく調節しつつある。その戦術的柔軟性と適応力は舌を巻く。抜擢された山口蛍の献身的守備を絶賛する声もあるが、ポジション的バランスを取っていたのは長谷部の方だった。

もっとも、本田、香川、長谷部の3人がベストプレーを見せたわけではない。本田はいたずらに中に入り、香川のスペースを奪っていたし、香川はサイドに出るような機転も利かなかった。密集したことで、重点的に敵に狙われた。このままで世界に打って出れば、返り討ちに遭う。3人とも、ミスが多くなっているのは明らかである。

しかし、それは指揮官であるヴァイッド・ハリルホジッチの戦術が根付いていない事情もあるだろう。タイ戦はいくらか改善されたが、試合中、3人が一つのボールにアクションする、という不具合が何度か起きていた。攻撃に関しては、中央で渋滞が続き、効率性はないに等しかった。

そんな狙いが定まらない戦いの中、パーソナリティを見せていたのは3人だった、とも言える。一つ一つの動きやプレーに迷いや焦りがあることで、狂いが出ている。そう考えるのが妥当だろう。

個人的に右サイドのアタッカーとしては、幅を作り、深みを出せる齋藤学(横浜F・マリノス)を推したい。スペイン語で「Desborde」(氾濫)と言われる、サイドの守備者を突破して敵を混乱させる資質を齋藤は備えている。その能力は、本田にはない。そして狭隘なスペースで身動きのできない香川ではなく、フィニッシュ能力のあるストライカーを一人増やすというのは一つの選択肢となる。岡崎と大久保嘉人or豊田陽平でツートップを組ませる。ボランチも長谷部の代役を果たせる選手は今回のメンバーには見当たらず、高橋秀人のような自軍を駆動させ、敵軍を封鎖できる戦術的選手を準備するべきだろう。

しかし深刻なのは、FIFAランキング120位のタイにも四苦八苦した事実だろう。選手一人一人の問題と言うよりも、チーム全体のひずみがある。ハリルホジッチが戦いの形を作り、ポジションを調整できなければ――。誰が出場しても、歯がゆい思いをすることになるだろう。

このままでは、3人はより過酷な批判の的にされる。そして判断力を鈍らせることになるだろう。とりわけ香川は焦りに駆られると、空回りし、自信を失う傾向にある。ブラジルW杯の不調が最たるものだった。そしていつしか本当に冴えを失い、チームから去らざるを得ないことになる。

はたして、それは本当に健全な流れなのか?

「相手が強い方が、縦に速い攻撃は力を発揮する」

もしかすると、代表関係者は考えているかもしれないが、この想定は余りに甘い。選手同士の距離感が悪かったら、列強の選手たちはすかさず抉ってくるだろう。前のめりになって中に偏りすぎる、そんな相手は鴨も同然である。カウンターを強い相手に発動するには、今のままではボールを失った後の守備強度が低すぎる。

攻守の戦術的破綻がしっかり修正されない限り、誰を起用するとしても、世界では一敗地にまみれる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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