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金崎はハリルJに戻れるのか?イタリア代表FWペッレは即追放。

小宮良之スポーツライター・小説家
鹿島でプレーする金崎夢生。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

今年8月、Jリーグのセカンドステージ、湘南ベルマーレ戦だった。FW金崎夢生(鹿島アントラーズ)は交代を命じられたことに腹を立て、石井正忠監督が(握手のために)出した手を振り払った。怒りが収まらないのか、激しい口調で監督に詰め寄ろうとし、スタッフに制せられた。なにを口走っていたかは明らかにされていない。しかし、その制止をも振り切ろうとする怒りの表情は常軌を逸していた。

それは許されざる反逆行為のはずだったが、事態は意外な方向へ進む。

「FWはそのくらい自信を持っている方が意気が良くていい」

そんな論調をベースに、注意が与えられただけでなんの処分も科されなかった。金崎はチームメイトや監督にわびを入れたのだという。エースを欠いた陣容は考えられないということか。クラブとしては、「自分たちの案件だからこれで幕引き」としたいようだった。その後、石井監督が体調不良で監督を退任するという件が話題に上って、結局は留任したのだが、これは「金崎の件とは一切関係ない」とのことだった。

歯切れが悪いやりとりだったが、これに対し、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「あの態度は受け入れがたい」と不快感を示し、金崎を招集外にした。代表監督による"処分"に、「内政干渉」「厳しすぎる」などとする意見も出た。「クラブと選手の間で決着が付いているのにやり過ぎではないか」ということだろう。

しかし世界的な見地で判断した場合、ハリルホジッチの反応はまったく正常である。

Jリーグのガバナンスの危機

選手が握手を拒否しただけでなく、現場で食ってかかる・・・それも制止を振り切ろうとするなどあってはならない。それは目を覆う蛮行。放置したら、組織のガバナンスの崩壊を意味する。クラブとしてリーダーである石井監督を全面的に擁護し、選手には罰を与えるべきだった(監督が許すと言ったとしても)。「量刑」は1ヶ月の謹慎か、3試合出場停止か、それはわからない。しかし、罰が必要だった。それがプロフットボールにおける正義である。

「日本風に穏便に」というのは一つの考え方かも知れないが、プロサッカーにその考えはそぐわない。必ず禍根を残し、組織は脆弱化する。

強い組織の範を示せないことも、「Jリーグは世界的に見て劣っている」とハリルホジッチに指摘される所以だろう。

ロシアW杯欧州予選、イタリアはスペインと重要な一戦を交えている。その試合、後半に交代を命じられたエースFWグラツィア―ノ・ペッレが不満を抑えきれなかった。ジャンピエロ・ヴェントゥーラ代表監督との握手を拒否し、「クソ野郎」と口汚く罵ってしまったのである。ペッレはすぐにその言動を後悔し、公式に謝罪を述べているが、時すでに遅しだった。

「代表選手はまず、関わる多くの人々への敬意を持って行動すべきである。彼をチームから追放する」

当然の処分だった。ペッレは代表チームから即刻、放逐された。マケドニア戦に向けた帯同は許されず、所属する中国のクラブに戻ることになった。

「重大な罪を犯してしまった。この結果の責任は自分で取る。みんなに謝りたい」

そう語るペッレは、事の重大さを理解している。それは許されざる行為なのである。あからさまな反逆行為が許されたら、リーダーは規律を保つことができない。反乱分子を意味する。

さらに言えば、本人も気持ち新たに再出発ができる。

「海外だったら、自己主張の一つ」

金崎の騒動が起こったとき、こんな論調があったことに驚かざるを得ない。少なくとも欧州や南米で、こうした主張は一切受け入れられないだろう。わがままがはびこったら、他の選手全員が勝手気ままに行動し、そこまでいかなくても嫉妬や不平等感でチームは崩壊する。

「エースだから許される」という感情がどこかに残る。それは絶対ないと誰かが言っても、必ずわき出てくる。例えばチームがうまくいかないとき、組織のガバナンスの欠如を恨めしく思うだろう。

「Jリーグのレベルは高いところに達していない」

ハリルホジッチがそう言って、Jリーグを軽視するのは苦々しい。日本的なものへの偏見も感じる。しかし、個人主義をはき違えた行動とそれに対する集団の甘い対応は、みょうちきりんに映ってしまうのだ。

組織が強くなるには、個人が逞しくなるには、厳罰を持って向き合う覚悟も必要だろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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