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「本田外し」は氷山の一角。ハリルが抱える「ズレ」。

小宮良之スポーツライター・小説家
オマーン戦、ボールに挑む本田圭佑。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

オマーンはFIFAランキング129位。「仮想サウジアラビア」としては、高さも強さもなく、おとなしい印象だった。最後まで生真面目に戦ってくれた点、最適のスパーリングパートナーだったが・・・。

ハリルJAPANは、オマーンを相手に4-0と大勝を収めている。新たに抜擢された大迫勇也が2得点を記録。一躍、定位置確保に名乗りを上げた。齋藤学も左サイドを中心に躍動している。

しかし、そこに心からの歓喜はなかった。

11月15日、日本はロシアW杯アジア最終予選、サウジアラビアとの決戦を迎える。

旬の選手を使うべき

「旬の選手を使う」

それだけのことで、ハリルJAPANはオマーンを蹴散らしている。なにひとつ、難しいことはしていない。

ブンデスリーガ、ケルンで好調を維持する大迫は、格下オマーンのDFを弄んでいる。1点目はファーポストの動きでマークを外し、ヘディングで打ち込んだ。2点目はオフサイドラインで駆け引きし、思うつぼにはめた。

Jリーグで華々しい活躍を見せる齋藤学も躍動。スリッピーなピッチが計算外だったところはあるが、左サイドを闊歩した。前半ゴールラインまで攻め入り、後方に折り返した山口蛍へのクロスは極上の質。後半に同じく左サイドを縦に進撃し、反転して一人を振り切り、ゴール前を横切るパスで清武弘嗣に合わせた技量も白眉だった。

二人は、コンディションの良さを窺わせた。

一方、清武弘嗣は格の違いを見せている。セビージャでは出場機会が得られない状況も、日本人選手としては最も高いレベルのチームに所属している意地か。単純に、同じトップ下の香川真司よりも、体も頭も切れている。中盤と前線を連結する仕事を、高いクオリティで完遂した。清武がラインを行き来し、ギャップ(選手と選手の間)でボールを受け、弾くことで好機を発動している。

しかし、それ以外は及第点を与えられないだろう。

「良い発見があったし、悪い発見もあった」

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は試合後に語ったが、そもそも大迫、齋藤はブラジルW杯メンバーで、オマーンを苦にするレベルの選手ではない。良い発見と言うよりも、「代表は旬の選手を選ぶべき」という自戒を込めるべきだろう。

発見した悪い点も、目新しいものではない。本田圭佑はACミランで試合出場が乏しく、勘の鈍りは明白だった。しかしその陰りは最終予選が始まってから続いており、「オマーン戦でひどくなった」ということもない。右サイドでボールを引き出し、好機にも顔を出していた。

その点、正念場での「本田外し」は一つの賭けになるだろう。オマーン戦後半、右に入った浅野拓磨は「本田以下」の出来だった。浅野は高いレベルでプレーする技量がまだ身についていない。オマーン戦終盤、浅野と入れ替わった久保裕也も、50歩100歩だろう。ゴールに向かう直線的動きの鋭さは浅野以上で指揮官好みだろうが、どれも単発。サイドは幅や深さも作る必要があり、その点は齋藤が適役だが・・・。

指揮官は速さ、強さ、激しさに固執しすぎる。このメンバー変更では、「本田外し」もやぶ蛇となりかねない。

スカウティングで「デュエル」(1対1)に比重を置きすぎていることが「見込み違い」を引き起こしている。ハリルホジッチはフランスのアフリカ系選手のような走力や激しさを好み、その視点で日本人選手も選んできたが、結局は眼鏡に合わず。選出できる選手の幅が狭すぎるのだ。原口元気のように監督と符合した攻撃的性格で、台頭した選手もいるが・・・。

その選手選考には狭隘さ、頑固さ、歪みが見える。例えば、なぜスペイン2部で主力になっているセンターバック、鈴木大輔を呼ばないのか。直近ヘタフェ戦は完封勝利に貢献。柏レイソル時代が遠い昔に思えるほど、そのプレークオリティは上がっている。選手選考のズレの象徴だろう。

ハリル、采配にも見えるズレ

「ボールを持たせる」

そう腹を括ったオーストラリア戦は、ハリルホジッチのリアクション戦術が功を奏していた。CBを分断し、SB、アンカーをはめ、堅固なブロックを作って侵入を許さず、焦りを誘ってボールを奪い、的確なカウンターも数度仕掛けた。ボールを奪い返す強度、カウンターのスピードは評価できた。

しかし、受け身の戦いだけで世界と伍することはできない。

「ボールを持たされた」、もしくは「ボールを持ったとき」の能動性が問われる。

オマーンは弱小だけに個人の技や連係で、どうにかゴールに迫ることができた(本田、清武、大迫、齋藤のボール流動は、ザッケローニ監督時代の名残りか)。しかしチームとしてはバックラインとフロントラインの距離が開きすぎ、攻撃が停滞した時間があった。距離感が悪く、ボールを持って運ぶ、という作業でミスが目立った。中盤は広大なスペースをカバーできず、不用意にカウンターも受けた。

もう一つ気になったのは、交代策だろう。オマーン戦終盤、浅野、岡崎慎司、久保というストライカーを次々に投入。血迷ったかに見える采配だった。前線は孤立し、中盤から前線のラインにパスを打ち込めず、攻撃の躍動感は消えた。弾を込める役がいなかったら、大砲も無用の長物。あろうことか、オマーンに際どいシーンまで作られている。

混沌とするサウジ戦に向け、ハリルホジッチはいかなる陣立てを組むのか? 長谷部誠が戦術の中心であることは変わらないだろう。しかし本田、岡崎、香川ら「主力組」をどう扱うのか。「控え組」を土壇場で用いるのは博打だろう。目算が立たない。難しい決断だが、これは指揮官が払うべき「ズレ」のツケだろう。

11月15日、サウジ戦はハリルホジッチにとって退路なき戦いとなる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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