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メッシが試合中に嘔吐。バルサにとっては悪しき予兆か?

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサを双肩に担うメッシ(写真:ロイター/アフロ)

12月13日、FCバルセロナはカタールの首都ドーハに遠征。サウジアラビアのアル・アハリと親善試合を行い、5-3と勝利を収めている。MSN(メッシ、スアレス、ネイマール)が揃って得点し、アル・アインでゲスト出場したUAE代表MF、アブドゥラフマン(W杯予選、日本戦でも活躍)がPKをパネンカで成功させるなど、チケットが完売した試合はお祭りムードで幕を閉じた。

しかし、バルサ関係者が心配げな表情を浮かべるシーンがあった。

前半25分、ピッチ中央のリオネル・メッシがつらそうな表情で嘔吐。その後、メッシはタッチラインに向い、水を飲んで一息つき、その後はプレーを再開している。今のところ、小さなニュースだが・・・。

マルティーノ監督時代にも嘔吐していたメッシ

メッシが試合中に嘔吐するシーンは、これが初めてではない。ヘラルド・マルティーノ監督時代にも頻繁に起こった。当時は、単なる「吐き気」として片付けられた。マルティーノが退任後は、その症状はあまり見られていない。

「僕がピッチで吐くことはなにも初めてのことじゃないよ。いつものことさ。水を飲めば、何ともない」

当時、メッシ本人は無事を強調したが、疲労やストレスで胃腸の働きが極端に弱くなる傾向があるという。

サッカー選手は試合を戦うため、膨大なエネルギーを使う。それがトップレベルの連戦ともなれば、労力はとてつもない。筆者はブラジル代表ロナウドがレストランで試合後の夕食を取る姿を見たが、こちらの食欲が減退するほど、サラダ、フライドポテト、パスタ、ステーキ、デザートなど大量の料理を胃袋に詰め込んでいた。それだけの量を消化し、熱量に変えられないと、プロサッカー選手という稼業をやっていけないのだ。

アルゼンチン人であるメッシは肉食で、同国伝統の分厚いステーキを好む。もっとも、「食事が肉に偏りすぎていることが筋肉系の故障につながっている」と指摘され、魚食も採り入れたことで、脂肪が落ち、怪我が少なくなり、プレーに切れが増したという。しかし肉好きは変わらず、小さい体が放つパワーは、「良質の大量の肉をエネルギーに転換できるから」とも言われる。

一流のアスリートは、内臓が超人的に丈夫なのだ。

もっとも、「プレーがうまくいかない」というストレスというのは、どうしても蓄積し、内臓をジャブのように打つ。

事実、嘔吐が続いたマルティーノ監督時代、バルサはチームとして一つもタイトル(リーガエスパニョーラ、チャンピオンズリーグ、コパ・デル・レイ、クラブW杯)を取っていない。メッシは2008-09シーズンから今まで必ずなにかタイトルを勝ち取っているだけに、屈辱のシーズンだった。マルティーノは1年で解任されるわけだが、メッシは不調のチームをどうにか救おうとし、空回りを続けた。

今シーズン、ルイス・エンリケ監督率いるバルサは「メッシ依存」が増し、低空飛行が続いている。長いパスをメッシに一発で合わせる、というカウンター攻撃が身についてしまい、伝統のパスワークに亀裂が入っている。この1ヶ月は、マラガ、レアル・ソシエダ、ヘルクレス(国王杯)という格下にドロー。レアル・マドリーとのクラシコでも、本拠地カンプ・ノウで終了間際に追いつかれ、引き分けた。危惧すべきは、前半ほとんどパスをつなげなかった点だろう。後半はアンドレス・イニエスタ投入で巻き返したが・・・。

そしてメッシは前線で孤立。後半には彼らしくない精度の悪さで、最大の決定機を外している。

「バルサの調子を判断するなら、メッシの状態を見ればいい」

かつてバルサを率いた名将、ジョゼップ・グアルディオラが残した言葉である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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