Yahoo!ニュース

レアルマドリー、ジダンは「長距離トラック運転手」のように仕事場へ。クラブW杯優勝の算段

小宮良之スポーツライター・小説家
セルヒオ・ラモスとひそひそ話をするジダン監督(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

欧州王者レアル・マドリーは、クラブ歴代最多の35試合連続無敗記録を達成している。直近(12月10日)のデポルティボ・ラコルーニャ戦は、1-2と逆転でリードされる展開だった。カゼミーロ、セルヒオ・ラモスの致命的なミスによって失点。しかし選手たちは一心不乱にボールを追い、終了間際の猛攻で3-2と勝利した。逆転弾はセルヒオ・ラモスのヘディングで、アディショナルタイムだった。

「マドリーが逆転するまで試合が終わらない、という気分だったよ」

敵将にそう言わしめるほどに、マドリーは勝利を確信し、怒濤の如く攻め寄せた。

なぜ、マドリーは勝ち続けられるのか?

サッカー選手でなかったら「長距離トラックの運転手」

「もし苦しまなければならないなら苦しむ。それだけの話だ」

マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン監督は、そう言って開き直っている。デポル戦も苦しい時間帯はあったが、屈しなかった。指揮官が勝負に対して恬淡であればあるほど、懐の深さを感じさせる。

ジダンは華やかなプレーをするファンタジスタだったが、そのパーソナリティは派手さは少しもなく、実直そのものである。

―あなたにとっての美徳とは?

選手だった時代に、インタビューで聞いたことがあった。

「善良さと誠実さ」

それがジダンという男なのだろう。父親には「働かざる者食うべからず」と労働の大切さを徹底的に教え込まれた。ジダンにとって、真面目な人生を貫くことが目標と言える。それ故に、不埒さ、悪辣さを極端に嫌い、ドイツW杯決勝でイタリアの選手に家族を侮辱されたときには、頭突きで応じた。目には目を歯には歯を、ということか。温厚で穏やかだが、鋭い牙も持っている。

まるで吠えない虎のようだ。

「ピッチの外では余計なことは言わない。やるべきことを黙々とやる。そういうのが格好いい」

そう語っていたジダンは、華やかさに恥じらいを感じ、寡黙さに美しさを覚えるのだろう。極めつけは、「もしサッカー選手になっていなかったら?」という質問に対する彼の答えだった。

「長距離トラックの運転手」

無駄口を叩かず、粛々とトラックを転がし、荷物を運び、荷を下ろしたら、家路につく。

その厳粛さが、マドリーの選手たちの気持ちを引き締めるのかもしれない。求心力は言葉を並べ立てることによって生まれるものではないだろう。短い言葉で、あるいはその背中で生き様を語れるか。

「最後まで夢を捨てず、(行くべき道を)信じ、エモーションを持っていれば、物事はどうにかなる。今はそう腹を括って戦えている」

デポル戦で後半アディショナルタイムに得点したセルヒオ・ラモスは言う。彼はFCバルセロナとのクラシコでも、終了間際に同点弾を叩き込んだ。終盤になって強さを増す、マドリーの象徴となっている。

その勝利の流儀は伝統的にマドリディスモ(マドリー主義)と言われ、論理を超えたところにある。簡単に言えば、どんな状況になっても決して屈しない。最後の最後まで勝利を目指し続ける。これは容易く聞こえるかもしれないが、これほど難しいことはなく、その姿勢によってマドリーは運命を味方にできるのだ。

「白いユニフォームに袖を通した瞬間、選手はマドリディスモを感じ、奮い立つ」

かつて、マドリーの選手として欧州を制覇したことのあるジダンは、実感を込めて語っている。

「マドリーの歴史が選手の血を沸騰させる。マドリディスモを感じた選手は凄まじい熱を発し、『必ずできる』という気分になるのさ。もちろん我々もミスをするし、ミスをしたら高い代償を払うことになるだろう。問題は、その後にリアクションできるかどうか。たとえ苦しい状況であっても、『勝利をつかめる』と自信を失わず、とことんポジティブに戦えるか、なんだ」

ジダンは勝利のフィロソフィーを淡々と語る。一喜一憂しない。静謐な戦い方が、選手に絶対的な確信を与える。どの試合も、交代で出場した選手が決まって、試合を決定づけている。戦力を総動員できるのは強みだ。

「かつてないほどチームは団結している。とても良いグループだと思う。"みんな仲良しのお友達"というのではない。それぞれがリスペクトし合っていて、各自が仕事をできているんだ」

真剣な仕事への向き合い方は、まさにジダンが人生を懸けて追求してきたことだろう。実直さは剛直さに通じる。マドリーとジダンは、やはり相性が良い。

12月15日、大阪。クラブ世界一を懸けたクラブワールドカップ、マドリーは準決勝で北中米カリブ海王者のクラブ・アメリカ(メキシコ)と対戦する。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事