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Jリーグからの欧州移籍は消える?長谷部が拓いた道と柴崎デビューまで

小宮良之スポーツライター・小説家
ドイツで奮闘を続ける長谷部誠(写真:アフロ)

今年1月、Jリーグから欧州に移籍した日本人選手は柴崎岳だけだった。それも1部リーグではない。

そもそも欧州の冬の移籍マーケットは、あくまで即戦力的な補強がメインとなっている。大きなスランプの選手や故障者の補充など特定のポジションの向上及びバックアップ。そして、明らかにチームで浮いてしまった選手のトレード的な移籍が中心だ。ラス・パルマスを巡る移籍も、パリSGで出場機会に恵まれないFWヘセ・ロドリゲスの獲得が最大目標で、もう一つが規律違反を繰り返していたFWセルヒオ・アラウホの放出が課題だった。

門戸は非常に狭い。

Jリーグはシーズンオフに入ったこの時期、移籍交渉を行う。事実、これまでも多くの選手が海を渡ってきた。しかし、この冬はJリーグからの移籍の流れは悪かった。

Jリーグからの欧州移籍が節目を迎えているのかもしれない。

日本人選手が活躍する条件

ここ最近、Jリーグから欧州へ渡った日本人選手たちは一進一退を繰り返している。鈴木大輔(ジムナスティック・タラゴナ)、小林祐希(ヘーレンフェーン)、浅野拓磨(シュツットガルト)はそれぞれスペイン、オランダ、ドイツで定位置を確保しているが、山口蛍、太田宏介、権田修一は1年以内に帰国せざるを得ず、宇佐美貴史(アウスブルク)はベンチで過ごす時間が長い。

単刀直入に言って、欧州移籍の流れは停滞、もしくは減退気味にある。欧州で活躍してきた本田圭佑(ACミラン)、香川真司(ドルトムント)、長友佑都(インテル)らがポジションを失っている現状。セビージャに移籍した清武弘嗣も出場機会がなく進退窮まって、帰国を余儀なくされることになった。

「リーガエスパニョーラは乾貴士(エイバル)の活躍によって、わずかだが日本人選手への評価が高まった」

強化関係者から聞こえる言葉は生々しく、日本人の評価を上げるのは日本人でしかない。逆説すれば、日本人選手の不振はそのまま日本人に返ってくるのだ。

近年、ブンデスリーガで日本人の道を開いたのは、高原直泰、長谷部誠(フランクフルト)の二人だろう。とりわけ、長谷部の勤勉さや適応力は日本人の評判を高めた。その道を、内田篤人(シャルケ)、酒井高徳(ハンブルク)、岡崎慎司(→レスター)、酒井宏樹(→マルセイユ)、香川、清武ら後続がさらに広げてきた。

しかし主戦場にしてきたドイツへの進出すら、勢いは弱まっている。「かつてのようなヒットがない」というのがシビアな理由だろう。マインツの武藤嘉紀は故障から復帰し、活躍が見込まれるが・・・。

欧州のクラブは全体的に、日本人選手に対して懐疑的な目を向けつつある。

もちろん、すでにヨーロッパで結果を残している日本人選手にはいくらでもチャンスが転がっている。岡崎、酒井宏はドイツで実績を叩きだし、プレミアリーグやリーグアンへの道を開いた"優等生"と言える。スイスで活躍を遂げた久保裕也もベルギーのゲントに新天地を求めるやいなや、得点力をアピールしている。日本人選手が、今も各国で健闘を示しているのは間違いない。

ただ、それは欧州で実績を叩きだしてきた選手への評価である。Jリーグでプレーする選手との新しい契約。これには慎重になってきているのが現状だろう。

「適応力」「シーズンを戦う体力」

その二点が、日本人選手に対する評価を下げる要因になっているという。

まず、多くの日本人選手は言葉の問題を抱える。異文化への適応も大きなストレスになる。

「柴崎は胃腸炎でデビューは遅れる?」という報道が出たが、理由は別にして、「脆さ」と受け取られてしまう。冬の移籍は即戦力が条件だけに、こうしたハンデはきつい(ちなみに筆者はスペインに長く住んだが、カナリア諸島の食べ物や風土は独特。例えば小さな島だけに水の問題があって、水道水で野菜などを洗うだけで味が残る。コーヒーや食事の味付けなど口に合わないものが多かった)。

そして、シーズンを安定して戦う体力の欠如も指摘される。Jリーグと違って、欧州リーグは消耗が激しい。グラウンドが重馬場だったり、強靱な足腰が必要で、日々のトレーニングだけでモモが張って鍛えられるほど。当然、試合でのコンタクトも強烈で、頭も使い、疲労度も濃くなる。

また、欧州でプレーする日本代表クラスの選手はジレンマを抱える。代表戦での長距離移動だけでもコンディションを保つのは難しい。欧州内を行き交うのと違い、代表招集は諸刃の剣と言える。注目される原口元気(ヘルタ・ベルリン)にしても、9,10,11月のW杯予選の消耗か、最近までは途中出場が続いていた。彼はブンデス3シーズン目だけに乗り越えられるはずだが・・・。

Jリーグで力をつけ、頂点を目指す。それは一つの生き方だが、世界最高峰のリーグは欧州にあるのが厳然たる事実。そこに果敢に渡ることで、日本サッカーは成長進化を遂げてきた。

夏の移籍マーケットでは、Jリーグから日本人選手がヨーロッパに躍り出る姿が待望される。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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