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スペイン2部リーグ、無名のガンマンたちの流儀

小宮良之スポーツライター・小説家
乾とゴールを祝うエイバルのエースFWセルジ・エンリク(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

「無名のガンマン」

そう呼ばれるストライカーが、スペインの2部リーグには何人もいる。1部リーグでの実績は乏しい。1部に挑んだシーズンはあっても、そこではゴールを撃ち抜くことができず、再び2部に帰ってくる。しかし2部では職人的にゴールをたたき出す。計算が立つガンマンとして、「用心棒」の職にあぶれることはない。国際的には知られることはない男たちだが、仕事人としての色気がある。

「どの舞台でゴールするか? 1部であれ、2部であれ、構わない。オレはオレが求められた舞台でゴールする。そうやって人生を切り拓いてきた」

かつて、福田健二の取材で2部のヌマンシアの密着取材をしていたとき、ジョン・ペレス・ボロが境地を明かした。ボロは20年近いプロキャリアのほとんどを2部で過ごしたが、長いキャリアを続けられたのは、2部でゴールを積み上げてきたからだ。それは誇るべき人生と言えるだろう。

現在の2部で無名のガンマンの代表格と言えるのが、トチェ(オビエド)、ダビ・ロドリゲス(アルコルコン)、アンヘル(サラゴサ)、ホルヘ・モリーナ(ヘタフェ)などだろうか。いずれも2部リーグ得点ランキングトップ10に入っている。1部では鳴かず飛ばずも、2部ではコンスタントに二桁以上を取れる。その存在は貴重で、彼らはその腕前だけを売りに、毎シーズンのように異なるチームを渡り歩く。さながら、流浪の用心棒のように。

36歳ながら2部エルチェのエースストライカーであるニノは、見方によっては「不運」に映るかもしれない。2部では合計160得点以上を叩きだし、2008ー09シーズンには得点王にもなった。それが認められ、一度は1部のクラブへ移籍して14得点を記録したが、不振のチームは降格した。昨シーズンもオサスナの戦力として稼働したにもかかわらず、昇格を果たしたチームから2部へ新天地を求めざるを得なかった。

しかし、ニノはベンチに座るよりも銃を撃つ日々を好む。高潔なのだ。

「オレたちストライカーは、ゴールを求められる存在であるべき。ベンチに座っていたら腕が鈍る。やがて価値がなくなって、捨てられる」

ガンマンにはガンマンの流儀がある。それは舞台はどこであれ、真剣勝負の中でしか果たせない。

1部と2部の違いとは

ところで、2部と1部の違いとはどこにあるのだろうか?

端的に言えば、「プレーを読む力」だと言われる。

2部は技術、戦術が劣るため、肉弾戦の度合いが高くなる。単純な筋力、単純な走力。目に見えるコンタクトやスピードによって、その場を制せられることがある。また、経験のある選手はそこにある隙を狙えるという。ところが、1部になると技術、戦術が高くなる。そこでゴールゲッターも、次のプレーを読む、その後のアクションの精度が求められるのだ。

かつて2部で3チームを渡り歩いた福田が話していたことがあった。

「スペイン国王杯で1部の強豪ビジャレアルと対戦したときでした。しっかりボールをスクリーンしようとしたら、そのときには2部のディフェンダーのようにアプローチに来なくて。でも、ほんの少しだけコントロールがずれると、どこからともなくボールをとられていました。がつがつしているんじゃなくて、もっとスマートで無駄がなくて。1部と2部では間合いが違っていました」

1部と2部には、見えない壁があるのだろう。

しかし、2部で得点をたたき出すのも一筋縄にはいかないところがある。各国の代表クラスの選手でも苦労した挙げ句、すごすごと帰国する例のほうが断然多い。相当に、厳しい生き残りの戦いがある。

そこを凌いで生き延びたガンマンたちは、無骨な気高さを纏う。

もちろん、飛躍を遂げた者もいる。例えば2011ー12シーズン得点王レオナルド・ウジョア(レスター)は英国に働き場を求め、昨季プレミアリーグ優勝の栄冠を勝ち取っている。また、ブラジルからやって来たシャルレスはスペインの2部B(実質3部)で地道に得点を稼ぎ、欧州進出13年目にして1部に這い上がり、セルタ、マラガで二桁得点を記録。そしてエイバルのセルジ・エンリクは2部でゴールを奪い続け、昨季1部エイバルに引き抜かれて9得点した後、今シーズンはエースに躍り出た。

「(2部の)ヌマンシアで過ごした日々を忘れることはない。家族のように迎えられ、得点を決めることで、失いかけていた自信を取り戻すことができた。サッカー選手として生まれ変わった気がするんだ」

エンリクは感謝の思いを口にする。スポットライトの当たる場所に躍り出る可能性も大いにある。夢は転がっているのだ。

しかし、目の前の試合を生き延びられないストライカーに明日はない。だからこそ、誇り高いガンマンたちは自らの雇い主のために、銃をぶっ放す。

「求められた場所で、ゴールを撃ち抜くだけ」

その覚悟が彼らを雄々しく見せる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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