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ルイス・エンリケの後任は?バルサ次期監督に有力なのは・・・

小宮良之スポーツライター・小説家
ルイス・エンリケ監督と健闘を称え合うシャビ・エルナンデス(写真:ロイター/アフロ)

先日、FCバルセロナの監督を3シーズン務めたルイス・エンリケ監督が退任を発表した。

これを受けて、「後任は誰?」の話題が熱を増している。

バルサは明確なプレーモデルがあるクラブだ。それを植え付けたのが、ヨハン・クライフだろう。クライフは選手としてバルサでプレーしただけでなく、1990年代に監督として率い、「ドリームチーム」として伝説を作った。

「美しく勝利せよ」

そのクライフイズムこそ、バルサイズムに近いか。

監督選びは、「結果を残せる監督なら誰でも」というわけにはいかない。「自分たちがボールを持ち、より多くの得点をして勝利する」。そのスペクタクル精神を受け継ぎ、実践できる指揮官であることが条件となる。

シャビが待望されるが、3シーズン後か・・・

その点、今シーズン目覚ましい躍進を見せるセビージャを率いるホルヘ・サンパオリ監督は、有力な候補だろう。クライフが「南アフリカW杯で最も魅力的なチームを作ったのはチリ代表サンパオリ」と激賞した人物。セビージャでは常に自分たちがボールを持ち、パスの出所を増やし、幅と深さを作った攻撃コンビネーションを展開。システムは可変式だが、常に能動的で受け身にならない。

後任に名前が挙がるのは必然だろう。

しかしサンパオリの参謀はファンマ・リージョで、かつてバルサを率いたジョゼップ・グアルディオラの師匠に当たる。リージョはクライフを敬愛し、その見識は群を抜いている。ただ、バルサの現体制はグアルディオラとは距離を置いており、ここはネックとなるだろう。また、サンパオリはバルサの内部を知らず(選手指導経験なし)、同じアルゼンチン人監督だったヘラルド・マルティーノと同じ轍を踏むことも危ぶまれる(力量差は明白だが)。

なによりサンパオリ自身、セビージャでの挑戦1年目で、新たな選択をするタイミングとは考えていないはずだ。

「やはり、バルサを知る人間が指揮をとるべきでは?」

その声は根強い。事実、バルサで育ち、活躍したグアルディオラは、監督としてそのアドバンテージを存分に生かした。また、ティト・ビラノバは下部組織の指導者として長く過ごし、ルイス・エンリケも選手としてプレーし、バルサBを率いている。

その点、「元バルサ組」に期待がかかる。

アスレティック・ビルバオで若手を進化させ、力強いチームを作ったエルネスト・バルベルデ、ドリームチーム時代の主力で監督としての経験も豊富なロナウド・クーマン、ルイス・エンリケの参謀であるファン・カルロス・ウンスエ、レアル・ソシエダを魅力的なチーム仕上げつつあるエウセビオ、監督しての評判が高く、フリーのローラン・ブラン、オランダで監督の実績を積むロナウド・デ・ブールらだろうか。

この中で本命対抗は、バルベルデとウンスエの二人になる。

バルベルデは89,90年にバルサに所属、クライフ麾下で戦っている。監督としてはエスパニョール、オリンピアコス、バレンシア、ビルバオで常にタイトルを争うような戦いを演じてきた。ボールゲームへの傾倒が強いが、選手の特性に応じ、特長を伸ばせる点が、現バルサの強化部の評価も高いといわれる。そして、ビルバオとは今シーズン限りで契約が切れる予定で、本人は更新に応じていない。

ウンスエはドリームチームのGKとして入団。フランク・ライカールト、グアルディオラのチームではGKコーチ、ルイス・エンリケ政権ではヘッドコーチとして働いている。現チームを誰よりも知り、グアルディオラ→ティト・ビラノバの移行例もあるだけに・・・。

大穴は「ドリームチーム」の末裔、オスカル・ガルシアだろうか。2010ー11シーズン、バルサユースを率いて三冠を成し遂げ、過去に例のない成功を収め、今も指導力への評価は高い。現在は南野拓実のザルツブルグを率い、オーストリアリーグを制覇している。

しかし、クレと呼ばれるバルサファンが待望しているのは――。

シャビ・エルナンデス監督の誕生だ。

シャビはバルサの選手として育ち、司令塔としてチームを輝かしい栄光に導き、キャプテンとして範も示してきた。まさに英雄的存在。フットボールに対する慧眼も持っており、言葉にする力もある。

だが現実には、シャビ監督の誕生は考えられないだろう。

まず、彼は監督に必要なレベル3のライセンスを持っていない。もう一つ、所属するアルサッドと契約を更新したばかり。まだ、現役への熱意を失っていない。さらにいえば、シャビと言えども、なんの監督経験もなしにバルサを率いるのは危険。グアルディオラやジダンも、Bチームを率いた経験が生きた。シャビがバルサを率いるのは既定路線で、無理矢理引きずり込むべきではないだろう。

シャビの監督スタートは3シーズン後か。もう一人、今のバルサでサイクルを踏む指揮官が必要になる。

個人的にはミカエル・ラウドルップを推したい。ドリームチームでファンタジスタとして活躍。監督になってからも、「無様に勝つな、散るときは美しく」の精神を実践し、ヘタフェ時代はカップ戦でバレンシア、バイエルンと撃ち合いを演じた。あるいは、クライフ信奉者として有名なキケ・セティエンも、ラス・パルマスで魅力的なパスサッカーを見せている。セティエンはラス・パルマスとの契約更新はない見込みだ。

ともあれ、バルサの後任問題はこれからしばらく世間を賑わすことになるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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