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セリーグ頂点への道 2015

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

3連戦を行いトータル10得点5失点のチームならば勝ち越している確率が高いだろう。このような曖昧な感覚に頼らなくても得点と失点から妥当な勝率を予想する計算式、ピタゴラス勝率が存在する。得点の2乗÷(得点の2乗+失点の2乗)で計算され得点と失点が同じなら勝率50%、失点より得点が多ければ50%を上回り、その逆なら下回る仕組みだ。この計算式で優勝ラインの80勝を挙げるためには各球団何が必要だろうか。

巨人・・・小林の成長と主力の復調が打線のカギ

思うように得点出来なかったイメージの通り、昨季のクリーンアップのOPSは他球団に劣る。ただその代わりに下位打線でも攻撃力が落ちず、チームOPSはリーグ3位。打順別OPSは1番が高く2番でへこんで3〜6番で山を作り7、8番で再び下がるという球団が多いが、昨季の巨人はクリーンアップのOPSが強打者の目安となる.800を超えていない反面7、8番のOPSが.830、.720と上位打線と変わらない。むしろ7番打者の.830はトップの数字だ。今季、打線でカギを握るのは阿部と小林か。阿部の打撃力は捕手だからこそズバ抜けていた。一塁手にコンバートして戦う今季、他球団の外国人選手に引けを取らないほどの成績を残せるか、小林が打撃でどれほどの成長を見せられるかで打線の迫力は大きく変わる。また昨季は打撃や盗塁など全てを含めた個人の得点能力を示すRCで2013年と比べ長野が85点から74点、村田が100点から64点と数字を落とした。2人が2013年並みとまでいかなくとも昨季と2013年の中間程度の成績を残せればそれだけで優勝に手が届く。金城、相川を獲得した以外は目立った動きの無かったオフだが、すでに層は十分に厚い。

阪神・・・中継ぎ左腕と能見、新井良の活躍で和田監督が宙に舞う

昨季はリーグ平均の608得点、618失点に対し599得点、614失点。どちらも極めて平均に近い中で、中継ぎ左腕の防御率だけ5.20と悪い。中継ぎ左腕を除いたチーム防御率は3.77。加藤、筒井らが復調しチーム防御率と同じになれば失点が22点減る。また昨季は9勝13敗と黒星が先行したエース・能見、投球内容も平均的な投手とほぼ変わりなく不本意なシーズンとなった。ただ、優勝のためにはやってもらわなければ困る投手だ。11勝7敗、防御率2.69だった2013年と同じく平均的な投手よりも25点の失点を防いでもらいたい。

打線では、1人で打線を組んだら何点取れるかを示すRC27で鳥谷、ゴメス、マートンのクリーンアップトリオが全員6点台で揃ってセリーグトップ10入り。シーズン通して中軸を固定して戦えたのが大きかった。また、規定打席には足りていないが実は新井良がこの3人を上回る6.60点を記録している。ポジション別OPSで三塁手は.628と高くなくこれは12球団最低の数字。2013年の開幕4番をつかんだ元気印がレギュラーに定着すれば、弱点解消と打線の強化が同時に行える。昨季の三塁手のRCは約50点だったが、新井良がフルシーズン試合に出場すれば見込まれるRCは約90点。得点はその差である40点の上積みが期待出来る。鳥谷の去就次第でチーム編成は大きく変わるが、中継ぎ左腕の層を厚くして能見と新井良が活躍すれば球団創設80周年の節目の年に和田監督が宙に舞う。

広島・・・凱旋した黒田がVへの使者になれるか

649得点はヤクルトに次ぐ2位、1試合平均4.5得点と昨季は打撃のチームだった。神宮球場とマツダスタジアムという本拠地の違いに注目すれば、見方によってはヤクルトをも超える打線だったと言えるかもしれない。目立った戦力の流出も無く、好不調の波の大きいエルドレッドがブレーキとならないことは絶対条件だが大きな不安要素は無い。ポジション別OPS.697でレギュラーを固定出来なかった三塁手は、長打力のある新井貴も加わり競争は更に激しくなった。昨季と変わらぬ攻撃力を維持出来れば数字の上では十分に計算が立つ。

投手陣ではしっかりとローテーションを守りイニングを稼げるバリントンが退団したが、ヤンキースからの巨額オファーを断って黒田がチームに復帰した。黒田は日本在籍時には綺麗な回転のフォーシームのストレートを投げていたが、渡米後は打者の手元で微妙に動くツーシームを主体とする投手にモデルチェンジした。厳しい環境にもアジャストし1イニング当たりに出した走者の数を示すWHIPは日本通算が1.27でメジャー通算が1.17。1試合当たりの与四球は2.35から1.99に、被安打は9.03から8.56といずれも向上。海を渡ってからの方が投球内容が安定している。海の向こうで投球術に磨きをかけ、FA権を取得した2006年には「他球団のユニフォームを着て、カープの選手を相手にボールを投げるのが想像つかなかった」との男気を見せていた大エースが古巣復帰で燃えないわけないだろう。期待通りのパフォーマンスを発揮し、平均的な投手よりも失点が14点多かったバリントンに代わって20点の失点を防げばチームとして失点は34点減らせる計算になり80勝に到達する。投打の大物が復帰した今季、赤ヘル旋風が現実味を帯びてきた。

中日・・・吉見、浅尾コンビで理論を超える勝率を

昨季570得点、590失点だった中日が80勝に必要な勝率0.559を超えるためには得点を40点増やし、失点を50点減らす・・・としたいのだが中日には妥当な勝率を予想するピタゴラス勝率の計算式が当てはまらない。徹底的に失点を減らすことに成功した2010年、2011年はどちらも得点はリーグ平均以下、得失点差はわずかに+18と+9にもかかわらずピタゴラス勝率以上の勝率を残しセリーグを連覇した。昨季も投手成績は特別優れているわけではなかったが、フェアゾーンに飛んだ打球の内、アウトにした割合を示すDERがセリーグで唯一69%を超えリーグ1位と守備成績は抜群。このしぶとさこそが中日の真骨頂だ。また、近年のセリーグ優勝チームの得点と失点をリーグ平均と比べた場合、より多く得点するよりも失点で有利に立ったチームが優勝するという流れがこの5年続いている。こうなれば、高橋周ら成長の期待される若手もいるが、ブルペンの力で優勝を狙うのが中日らしい。連覇を果たした2010年と2011年は先発では吉見が中継ぎでは浅尾が中心だった。この2人は2010年に36点、2011年にはなんと61点の失点を防ぎ連覇に大きく貢献している。近年は故障のため満足に投げられなかった2人だが、復帰すれば投手陣に芯が通る。投手王国復活に2人の活躍は欠かせない。

DeNA・・・強力クリーンアップの爆発と投手陣の底上げが必要不可欠

2013年にリーグ最多得点、12球団最多失点と派手だったチームから一転、昨季はリーグ最少得点で失点もリーグ平均とほぼ同じの「おとなしめ」のチームとなった。優勝には投打共に奮起が必要だが、ファンを喜ばせたのはグリエルの残留。62試合の出場で約44点の得点を生み出したキューバの至宝がフル出場すればちょうど100点を生み出す計算だ。また、外国人助っ人ではブランコが抜け、ロペスが加入。こちらはグリエルに比べ歓迎ムードは少なかったが、期待出来る材料もある。BABIPはフェアゾーンに飛んだ打球の内、安打になった割合を示す指標で年度によってバラツキが大きい。そのためBABIPの高い年に打撃成績が良くても運が良かっただけという見方も出来る。つまり好成績を残してもBABIPが例年より高ければ翌年以降も同じく活躍出来るかはやや疑問が残り、BABIPが低ければ成績向上が見込まれる。昨季のロペスのBABIPは.234と低く、打率.243、OPS.749と振るわなかったがBABIP.309だった2013年は打率.303、OPS.836だった。BABIPは収束する傾向があるため、昨季より打撃成績を向上させる可能性が高い。昨季の一塁手のRCは81点だったからロペスが2013年並みの結果を残せばブランコの穴は十分に埋まる。中畑監督は4番・筒香を明言しており、グリエル、ロペスと組むクリーンアップは他球団から見れば脅威だろう。

投手陣で主だった補強は岡島ぐらいだが久保、山口を筆頭にベテランの三浦、高橋尚、開幕投手経験のある高崎、三嶋ら頭数は揃っており、一時期のようにローテーションが組めないと頭を抱えることもない。優勝のためには投打共にノルマは65〜70点。若き主砲と両外国人が中心となって得点を増やし、投手陣の底上げで失点を防ぐ。このハードルを越えた時、CS進出が目標、と言わず頂点に手が届く。

ヤクルト・・・とにかく失点を減らす。先発陣に光り

667得点、717失点は共に12球団最多、リーグ平均より100点も多い失点を減らすため球団としては珍しくFA補強を行い、大引と成瀬を獲得した。

凄まじい攻撃力を誇った野手陣だが、遊撃手、中堅手のセンターラインが固定出来てない。最も多くのスタメン出場を果たしたのは森岡で68試合。次いで荒木の29試合、谷内の23試合となる。ヤクルトのポジション別OPSで遊撃手は.672。大引のOPSは.656だから攻撃力が大きく上がるわけではないが、守備率.984は上記3人を上回る。ヤクルトの遊撃手の失策は21個でこれはリーグワーストと1個しか変わらない。大引には攻撃力を落とさずに守備も引き締める役割が期待される。

投手補強の目玉である成瀬は、奪ったアウトの内訳はゴロよりもフライが多く、こういうタイプのピッチャーは長打を打たれやすい傾向にある。実際、成瀬の昨季の被本塁打18本はパリーグワースト2位。加えてヤクルトが本拠地とする神宮球場は本塁打が出やすい球場として知られ、パークファクターは約1.5。これは他球場の約1.5倍本塁打が出やすいということになる。タイプ的に2点台前半の防御率で15勝以上を挙げるような救世主としての働きは難しいかもしれない。ただチームは故障者が続出し、ローテーションのやりくりに苦しんだだけにしっかり試合を作れるイニングイーターとして働けば投手陣全体の負担軽減につながる。館山、由規も戦列に復帰すれば石川、小川と共に実績十分の先発ローテーションが完成し石山や木谷を中継ぎに専念させることも可能。優勝のためにはとにかく失点を減らすこと。大引が守備を引き締めて、先発投手陣が試合を作り失点を125点減らせば、真中監督が就任1年目でセリーグを制す可能性は十分にある。

パリーグ頂点への道

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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