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守備率以外にもゴールデングラブ賞に評価基準を。文句なしのパリーグ外野と意見の分かれるセリーグ遊撃。

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

失策数以外で守備力を測る方法

先日、ゴールデングラブ賞授賞者が発表された。これは記者投票によって決まるものであり参考となる成績は守備率であることがほとんど。守備率は(刺殺+捕殺)÷(刺殺+捕殺+失策)で計算され一言で言えば、いかに失策をしなかったか、を表す数値だ。その性質上、難しい打球に対してムリをしない選手の方が好成績となる場合がある。

例えば、外野手が打球に追いつくもグラブに当てて落としてしまえば失策、そもそも追いつけずに野手の間に落ちると安打となるのならば、追いつかない方が守備率は高くなる(もちろん追いつくことさえ難しいと記録員が判断すれば落球しても安打となることもあるが、その判断は記録員の主観に委ねられる)。しかし、チームとしてはアウトを奪えずに出塁を許していることに変わりない。守備率がミスをしない確率を示すのに対し、守備範囲の広さの目安となるのがレンジファクター(Range Factor)だ。計算式は

RF=(刺殺+補殺)÷守備イニング×9

こちらはどれだけのアウトに関わったかを示す。1試合当たりアウトを5個奪う遊撃手は4個しか奪えない遊撃手よりもまず間違いなく守備範囲が広いだろう。ただし打席数や投球回と違って守備イニングは公表されていない。そのためRFの簡易版が使われることが多い。計算式は

(刺殺+補殺)÷出場試合数

当然ながら終盤2イニングの守備固めで出場した選手よりも9イニングフルで出場した選手の方が数値は良くなる。そのためレギュラー選手以外を比べる時は注意が必要。また、捕手と一塁手は刺殺のほとんどが三振や内野手からの送球を受けたものであるため守備範囲を表しているとは考えにくい。今回は二塁手、遊撃手、三塁手、外野手に絞りゴールデングラブ賞受賞と簡易RFトップの選手を比べてみた。

セリーグ

二塁手

ゴールデングラブ賞・・・菊池(広)

簡易RFトップ・・・山田(ヤ)

菊池の簡易RFは5.65035で山田は5.657343。小数第三位まで全く同じと拮抗しており守備率も山田が.989で菊池が.988。ほとんど差は無かったが記者の主観で選ぶならやはり菊池になるか。得票数は菊池が156票で山田が89票とやや差がついた。

三塁手

ゴールデングラブ賞・・・川端(ヤ)

簡易RFトップ・・・・村田(巨)

村田の簡易RFは2.41で2.22の川端を上回ってはいるが出場試合数にも50試合近くの差があり守備率は川端の.970に対し.947と遅れをとる。.985のバルディリス(De)がトップだが簡易RFは1.93と2を切っており総合的に考えて川端で決まり。

遊撃手

ゴールデングラブ賞・・・鳥谷(阪)

簡易RFトップ・・・・田中(広)

記者投票は鳥谷が104票で坂本(巨)が91票。守備率.977の鳥谷よりも.982の坂本を推す声も多数あり最も評価の分かれたポジションとなったが簡易RFの観点からは田中を推したい。田中の失策数は22個で鳥谷より8個多いが捕殺数は96個も多い。18試合に1回打ち取った当たりをミスするが3試合に2回安打をアウトに変えるとしたらかなり優秀ではないだろうか。

外野手

ゴールデングラブ賞・・・福留(阪)、丸(広)、大島(中)

簡易RFトップ3・・・・大島、丸、梶谷(De)

セリーグの外野手で唯一簡易RFが2を超えた大島と1.95でリーグ2位だった丸が順当にゴールデングラブ賞を受賞。福留の1.74はリーグ6位だが、失策0で1.000の守備率や巧みなフェイクで走者の進塁を防いだ技術も高く評価されたのだろう。大島、丸を上回る外野手トップの157票と多くの支持を集めた。

パリーグ

二塁手

ゴールデングラブ賞・・・クルーズ(ロ)

簡易RFトップ・・・浅村(西)

浅村もクルーズも守備率は.983で全く同じ。簡易RFは浅村が5.75で5.56のクルーズをやや上回る。ただ得票数はクルーズが126票で浅村が48票と大きく開いた。20試合近く多く出場して高い数値をキープしているのだからもっと浅村を評価する声があってもいいと思うのだが。

三塁手

ゴールデングラブ賞・・・松田(ソ)

簡易RFトップ・・・・レアード(日)

守備率.976でトップの松田が197票を集め断トツで選ばれた。簡易RFトップはレアードの2.37だが守備率.952で失策数は松田の倍以上。松田の簡易RF2.32はレアードに次ぐ数字であり優勝チームであることやムードメーカー的役割のイメージも加われば票を集めるのも納得。

遊撃手

ゴールデングラブ賞・・・今宮(ソ)

簡易RFトップ・・・・安達(オ)

華麗なグラブ捌きと小さく素早い動きからの力強い送球で守備力に定評のある今宮だが、簡易RF4.26はNPBのホームページで個人守備記録が公開されているパリーグ遊撃手4人の中では最も少ない。もしかするとチーム奪三振数が多く野手の守備機会が少ないためか。簡易RF4.69でトップの安達は記者投票で11票しか集まらず少し残念。

外野手

ゴールデングラブ賞・・・柳田(ソ)、秋山(西)、清田(ロ)

簡易RFトップ3・・・・秋山、柳田、清田

異なる選出方法ながら選出された3人がピタリと一致した。外野手の簡易RFは2.0を超えれば文句なしに優秀と言えるが秋山は2.43、柳田は2.11でクリア。1.87でリーグ3位の清田も失策0で守備率1.000を記録した。中でも特筆すべきは秋山の341刺殺という数字。なんと100減らしても刺殺数リーグ2位、簡易RFも1.73でリーグ3位に入る。安打数ばかりが注目されていたが刺殺数でも50年以上前に記録された353個のパリーグ記録に迫る勢いで量産していた。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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