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セリーグ頂点への道~2016~

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

ペナントレースを戦う上で400得点500失点のチームと500得点400失点のチームならば、まず間違いなく後者の方が勝率が高いだろう。では、勝率の差はどれぐらいになるのだろうか。得点の2乗÷(得点の2乗+失点の2乗)で計算されるピタゴラス勝率によれば前者は0.390、後者は0.610。勝ち星換算で56勝と87勝となる。このように得点と失点からある程度勝率を予測することは可能。昨季の得失点をもとに優勝ラインとなる80勝に到達するためには各球団何が必要だろうか。

ヤクルト

574得点は2位のDeNAに66点差をつけるダントツのリーグトップ。昨季、前年最下位から優勝を飾った要因が攻撃力にあることは間違いない。その打線の中心はもちろんトリプルスリーを達成した山田だ。本塁打王と盗塁王に輝き、打率と打点はリーグ2位。山田が生み出した得点は138.74点とほぼ毎試合1人で1点を挙げている計算になる。その山田以上の打率を残したのが川端であり、打点で上回ったのが畠山と打撃部門の主要タイトルをヤクルト勢で独占した。

投げても41セーブを挙げたバーネットと守護神につなぐ秋吉、ロマン、オンドルセクが奮投。前年4.58で12球団ワーストだった救援防御率は12球団トップの2.67にまで改善された。高い攻撃力と鉄壁のリリーフ陣、他球団を圧倒するストロングポイントはあったが弱点も抱えている。ポジション別OPSで外野は全てリーグ平均以下、先発陣も決して万全とは言えない。しかも今季はバーネットとロマンの退団が決定し勝利の方程式は崩壊した。失点増は覚悟しなければならず連覇への道は平坦ではない。仮に失点が20点増えるとすれば80勝のためには得点を33点増やす必要がある。ただオリックスから移籍の坂口でセンターの穴を埋め、雄平、バレンティンが本来の力を発揮すれば得点力アップは十分に可能。実際2014年シーズンには昨季より93点も多い667得点を挙げている。少々のビハインドなら打って取り返す、それがツバメ軍団の戦い方。猛攻が続く限り東京音頭は鳴り止まない。

巨人

昨季の防御率は12球団トップの2.78。平均的な投手と比べて防いだ失点はエース・菅野とマイコラスの2人だけでなんと50点。この2人のQS率(6回以上を投げ自責点3点以内に抑えた割合)は80%を超える。大崩れしない先発の柱が2枚いるのは大きな強みだ。また、新守護神の澤村も15.58点を防いだ計算になりこれはバーネットや呉昇桓、山崎康らを抑えリーグナンバーワン。リーグ平均より失点が約70点も少ない12球団トップの443失点はこの3人の活躍によるところが大きい。

その一方、チーム打率.243はリーグワーストで東京ドームを本拠地にしながら、98本塁打はリーグ4位。489得点は前年から100点以上ダウンしている。投手陣が昨季と同様の成績を残せるのならば得点をリーグ平均にするだけで80勝に手が届く。昨季の歴史的貧打解消のためロッテからクルーズ、西武から脇谷、そして新外国人の巨漢スラッガー・ギャレットを獲得。昨季が”底”だっただけに上積みは難しくないはずだ。

阪神

得失点差は-85、ピタゴラス勝率から予想される勝ち星は59勝にもかかわらず昨季は70勝を挙げAクラスをキープ。史上稀に見る勝ち星の積み上げに成功した昨季だが、そこから80勝が見込まれる得失点にするためには攻守共に大幅な底上げが必要だ。

まず攻撃陣、465得点は12球団最下位。ポジション別OPSでリーグ平均より優れていると言えるのは鳥谷が守るショートと福留が守るライトだけ。ゴメスもチーム内では好成績を残しているがファーストというポジションを考えればチームにアドバンテージをもたらしたとまでは言えない。マートンが2014年の.872から.691にまで数字を落としたのも痛かった。6年在籍した安打製造器に代わって今季新加入するのがヘイグ。3AのMVPは日本の野球にフィットするか。昨季マートンが生み出した得点は約60点、ヘイグが当たりなら20点、大当たりなら30点程度の得点増が見込まれる。

次に投手陣、550失点はリーグ5位。特に救援防御率は12球団で唯一となる4点台と振るわず、逆転勝ちも12球団最少の18試合。最優秀中継ぎの福原、最多セーブの呉昇桓で堪えていたが苦しいブルペン事情であることは否めない。歳内や松田ら若手の中継ぎがブレイク、古巣復帰の藤川球児がバリバリ投げ、マテオが守護神として君臨する、これらが全て実現し失点が50点減らせて、なおかつヘイグが大当たりだったとしても計算上これでやっと勝率5分。ここから貯金を増やすためには鳥谷、福留、ゴメスは昨季の成績を維持、ではなくもうひと踏ん張りして5点~10点ずつぐらい得点を増やし、打撃が売りの梅野や江越辺りが勝負強い6番打者として存在感を放つ必要がある。昨季が奇跡的だっただけに越えるべきハードルは高く多い。

広島

開幕前は優勝候補に挙げられながらCS進出さえも逃した昨季、貯金を作ったのは開幕カードで勝ち越した時だけという寂しいシーズンとなってしまった。

しかし昨季の504得点、473失点はピタゴラス勝率の計算上は75勝が見込まれるように決して悪くない。チーム防御率2.92は巨人に次いで12球団2位。先発陣も救援陣も2点台の防御率に抑えている。特に優秀だったのがエース・前田とジョンソン。巨人は菅野とマイコラスで50点の失点を防いでいるとしたが、広島は前田とジョンソンでそれを上回る70点のアドバンテージを作っている。これに黒田を加えれば減らした失点は85点。他球団からすれば脅威だった。ただ今季は200イニング以上を投げ50失点以下に抑えた大黒柱が海を渡る。ドラフトで獲得した岡田や横山の即戦力コンビと新外国人投手がどこまでやれるかだが失点増は覚悟しなければならない。

打順別OPSでは9番を除く1~8番の内5つでリーグ平均を上回っている。しかし、リーグ平均を下回った3つの打順が3~5番。エルドレッドを筆頭に外国人選手の負傷離脱が大きく尾を引いた。ポジション別で見れば物足りないのがファーストとサード。その穴を埋めるべく中日からルナを獲得。ポジション的にも役割的にもドンピシャの補強だ。

前田が作ったアドバンテージが消えるとすれば失点は35点増える。そうすると80勝するためには得点を60点増やさなければならない。ルナの加入で+20点、菊池と丸の復調で+30~35点、足りないもう一息は61.5%だった盗塁成功率を改善しリーグ最多だった50盗塁死を減らすことで達成したい。

中日

世代交代の過渡期にあって和田、谷繁、川上、山本昌、小笠原らがチームを去ることになった昨季は3年連続のBクラスに終わった。

強打者の目安となるOPS.800以上は規定打席到達未満まで見渡しても1人もいない。本塁打71本は12球団最少で2試合に1本以下では爆発力に欠ける。長打は無くともしぶとく守り勝つ野球が持ち味だったが失策数は12球団最多の94。失策よりも本塁打の方が珍しいという、らしくない成績を残してしまった。チームトップの本塁打を放ったのはプレミア12でも活躍した平田だが、13本塁打は4番としては迫力不足。しかも今季は80試合で4番を務めたルナが移籍しスケールダウンは必至。高橋周がサードのレギュラーとして大爆発、新加入のビシエドが年間通して4番に座るなどして平田を6番に置けるようになれば打線に厚みが出るが高望みか。それでも55点程度は上積みが欲しい。

投手陣では大野が12球団トップの207 1/3回を投げ2桁勝利、若松も防御率2.12で10勝を挙げる活躍でブレイク。実は若松が防いだ失点は大野よりも多い。改善点は終盤の継投か。救援防御率は3.01のリーグ4位。しかし逆転負けはリーグ最多の34試合。チームトップの19セーブを挙げた福谷の防御率は4.05で、セットアッパーの又吉が6勝6敗とまるで先発投手かのような成績だ。今季、抑えとして期待される新外国人のファン・ハイメは160km/hのストレートが持ち味だが制球難の一面も。かつては浅尾、岩瀬ら黄金期の中日には必ず強力なリリーバーがいたがどこまで近づけるか。昨季の経験を糧にブルペンの厚みを増し失点を35点減らしたい。

DeNA

前半戦首位ターンから終わってみれば最下位へというプロ野球史上初の不名誉な記録を作ってしまった昨季、長年の課題は解消されないままだった。

抑えに抜擢されたルーキーの山崎康が37セーブを挙げ新人王に輝いたが、先発防御率は4.00とリーグワーストで規定投球回到達者は無し。被安打、与四死球に加えて捕逸と暴投を合わせたバッテリーミスの多さでもリーグ最下位。また、フェアゾーンに飛んだ打球をどれだけアウトにしたかを示すDERが69.4%でリーグワースト。70%を切っているのはセリーグでは阪神とDeNAだけ。残り4球団はギリギリ70%ではなく全て71%以上。アウトにすることが難しい打球を投手陣が多く打たれるからなのか、守備範囲に難があるからなのか、どちらにせよセンターラインが固定出来ないディフェンス面に改善の余地があることは明白だ。

リーグ2位の508得点を挙げた攻撃ではチームの顔である梶谷、筒香と移籍1年目のロペスが活躍。特に筒香が生み出した得点は102.58点とリーグ2位の数字を叩き出し、不動の4番として申し分ない働きをした。ただし守備の課題が攻撃にもそのまま当てはまる。ポジション別OPSではキャッチャー、セカンド、ショート、センターがリーグ平均以下。日本を代表するクローザーに主砲を擁しているが、まずは598失点をどうにかしなければ優勝はおろか上位進出も見えてこない。先発陣の立て直しとセンターラインの強化、これにより失点を100点減らし得点を50点増やす。とてつもないことのように思えるが最下位→優勝を成し遂げたヤクルトも2014年の717失点から約200点減らしている。DeNAにもチャンスありだ。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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