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鮮やかな初球攻撃も長い目で見れば・・・

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

「チャンスだったので初球から積極的に行こうと思ってました」試合中、ベンチリポートで届けられるタイムリー談話でこう聞くことは実に多い。夏の大会を前にチーム紹介のため20校近くの高校に行かせてもらったが自身のアピールポイントを「初球から振って行ける積極性が持ち味です」と話す選手がほぼ全ての高校にいた。プロアマ問わず初球攻撃を好む傾向は強い。確かに初球を痛打された印象は相手バッテリーやベンチに強く残る。

先日のDeNA戦で巨人のエース・菅野が今季初めて炎上した。試合前の時点で102回を投げわずか13失点(自責点9)、防御率0.88だったセリーグ最強投手が3回途中52球で11安打を浴び9点を失った。攻略の決め手となったのは初球攻撃。満塁弾を含む3安打6打点と活躍した桑原が全て初球を捉えていた他、この日菅野が対戦した19人の打者の内ファーストストライクを見送ったのはわずか4人。15人がファーストストライクをスイングしていた。

初球に分が悪いのは菅野だけではない。セリーグ防御率2位の広島・ジョンソンも.208の被打率が初球に限れば.273となり、160km/h台のストレートを投げ込む日本ハム・大谷も.191→.269となる。24勝0敗1セーブという快挙を成し遂げた2013年の楽天・田中でさえも.217だった被打率が初球に関しては.319と並の投手になってしまう。

よって好球必打、甘いファーストストライクを逃さないのが好投手攻略の必須条件だ、と言えそうだがノーストライクノーボールのカウント、つまり初球はイーブンではなく打者有利だ。打者にとってみれば見逃してもさして痛手にならない初球をスイングするのは狙い球か甘く入ってきた球、高確率で安打に出来る球だった時だけ。菅野攻略も初球打ちが功を奏した、のではなく狙い球の絞り方が的確だったのではないだろうか。

見落とされがちな初球打ちのデメリット

初球打ちは決まれば鮮やかだが浅いカウントから打っていくと四球は確実に減る。四球が少ないタイプの代表例が広島・菊池。通算2503打席で四球は120個、約21打席に1つの割合だ。今季の打率は.304だが過去3年間は2013年から順に.247、.325、.254と波がある。逆にチームメイトの丸や阪神・鳥谷は四球が多いタイプ。打率よりも約1割出塁率が高くアウトにするのが難しい打者だ。打者の得点への貢献度、何点の得点を生み出したかを示すRCでも菊池がレギュラーに定着した過去3年間の成績で

菊池 63.64、92.57、58.07

丸 85.93、112.56、85.84

鳥谷 94.00 、95.40、83.33

と全てのシーズンで鳥谷と丸が上回っている。打率や長打率で菊池の方が好成績を残しているシーズンがあるにもかかわらずだ。初球打ちの爆発力や鮮やかさは目を見張るものが不発に終われば”淡白な攻撃”の一言で片付けられがちで長期的な視点に立てば安定感という面ではやや劣る。大事なのは初球から打って行くことよりも、初球打ちで結果を残す準備を整えることだ。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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