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学校に行けなくなるアルバイトに注意! ブラックバイトの実例と対処法

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

4月になり新学期がはじまった。新しい生活がはじまりこれからのアルバイト先を探している大学新入生も多いだろう。

しかし、最近、アルバイトのせいで学校に通えなくなるという「ブラックバイト」が大きな問題になっている。学校のテストや授業、就職活動よりもアルバイトを優先するよう強制させられ、「単位を落としてしまった」「留年してしまった」「就職活動を諦めた」という相談が、私たちのところに相次いで寄せられている。

では、これから働き始める学生が、ブラックバイトに絡め取られないようにするにはどうすればよいだろうか。あるいは、これから息子・娘がアルバイトを始めるという親は、どこに注意すればいいだろうか。POSSEに寄せられた事例をみながら考えていこう。

(尚、詳しいブラックバイトの実例そしてその対処法については、拙著『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)を参照していただきたい)

ブラックバイトの被害実態

ブラックバイトの特徴は「学生なのに、アルバイトのせいで学生らしい生活をおくることができない」という点にある。特に、多くの大学生がアルバイトしている「外食(居酒屋やファミレスなど)」、「小売(コンビニやスーパー)」、「塾」などで多発している。

例えば、「しゃぶしゃぶ温野菜」でアルバイトをしていたAさんの事案をみてみよう。

「しゃぶしゃぶ温野菜」で働いていたAさん(20歳、男性)は、当初、週4日ほど働いて月に5万円ほど稼ぐ予定でアルバイトの求人に応募した。その旨を面接で伝えて、無事採用された。働き始めた時は、学業との両立もできていたという。

しかし、半年ほど経つと、フルタイムで働いていたフリーターが突然退職し、さらに、アルバイトが5人ほど一気に退職してしまったため急速に人手不足になった。そのしわ寄せがAさんに集中していった。

その結果、Aさんは週5日から6日入るようになり、接客だけでなく清掃など店舗の「クローズ作業」も担当することになった。さらに数ヶ月経つと、営業前の仕込み作業も任されるようになった。仕込みには2時間ほどかかり、これまでの「クローズ作業」も行っていたため、14時ころから26時ころまで毎日働いていた。

オープンもクローズもできるAさんは店舗に必要不可欠な存在となり、4ヶ月間、1日の休みもなくシフトに入っていた期間もあった。体力的にきつくなったため「辞めたい」と店長に伝えると、「懲戒解雇にする。懲戒解雇になったら就職できなくなる」、「4000万円の損害賠償を請求する」と脅され、胸倉を掴まれ辞められなかった。

辞めると伝えた後、店長からのパワハラがひどくなった。勝手にしゃぶしゃぶ食べ放題を自腹購入させられたり、激しい剣幕で怒鳴られたりした。精神的にも参ってしまったAさんは、アルバイトで働き詰めになったせいで、大学に全く行けず春学期の単位を全て落としてしまった。

この「しゃぶしゃぶ温野菜」の店舗で起こっていたことは、大学に行けなくなるほどの長時間労働とシフトへの組み込み、商品の自腹購入、退職したいと言うと暴力や暴言で脅し辞めさせないといった、まさにブラックバイトに典型的な要素が含まれている。

注意してほしいのは、Aさんが「しゃぶしゃぶ温野菜」という有名店に安心して入社したということだ。有名店だからと言って、油断できないのがブラックバイトなのである。

また、はじめのうちは普通にアルバイトができていたことも重要だ。普通のアルバイト先も、先輩アルバイトの退職などで人手が足りなくなると、一気にブラックバイトになってしまう場合もあるのだ。

いずれにしても、ブラックバイトで大学に通うことができなくなったという相談が、全国各地の大学生・高校生から、毎日のように私たちのところには寄せられているのが実情である。

コンビニチェーン店の事例 就職活動が妨害された

もう一つの事例を紹介しよう。就職活動中の学生だった、Bさんの事例だ。

Bさんは県外の就職活動に応募するために、月5〜6万円程度稼ぐ必要があった。そこで、自宅の近くのコンビニチェーン店(ファミリーマート)をインターネットの求人サイトを探して見つけた。場所は関西有数のターミナル駅に直結する大型商業施設内で、開店時にはニュースになったほどの注目店だった。そのため、彼は「安心」していたという。

面接は店長と二人で行われた。就職活動のときはシフトを配慮してほしいと打診したところ、店長は大丈夫だと約束してくれた。また、一週で働けるのは週2日までだと伝え、それも了承してくれた。

ただし、面接後に受け取った契約書には「雇用契約期間中は雇入から1年以内は法令に定められる事由以外の理由で自己都合での退職はできない」と記されていた。

実際に働き始めてみると、この店舗は人気店にもかかわらず、働いているアルバイトの人数が足りない状態だった。アルバイトは全員で10数人。学生は1、2名程度で、いわゆる「フリーター」が多かった。「フリーター」と「主婦」のアルバイトがこの店舗の中心であったが、彼らは日中のシフトを優先されていた。そのため、夜勤を担当できるアルバイトは自分以外にもう一人しかいなかった。

勤務時間は23時から朝6時までの7時間。Bさんはすぐに一人勤務を任されるようになった。このコンビニのシフトは2週間前には組むことになっていた。しかし、就職活動の面接日程はだいたい1週間前に判明する。

問題が起きたのは8月の上旬だ。ある日、シフトの入っている日の前週に就職活動の予定が決まり、すぐに店長に連絡を入れた。だが、シフト作成の期限が過ぎているとして、休ませてもらえなかった。やむなく彼は、その日の就職活動をあきらめて出勤した。数日後、また、その翌週に東京で絶対に行きたい面接が入ってしまった。こちらは本命だった。店長に頼み込んだ結果、その日については調整をなんとかしてもらえたが、代わりにその次の週に3日勤務を頼まれてしまった。

その日以降にも就職活動の日程がびっしり詰まっていた。9月にかけて就職活動がますます忙しくなっていくため、シフトを毎回苦労して調整することも、これ以上勤務が増えることも、もう不可能だった。

そこで、このBさんはアルバイトを辞めることにした。「当初からのお約束では就職活動が第一だとお話したと思われます」と、LINEで退職を伝えると、店長からは、「雇用契約を結んでいる為、こちらの同意がない限りは退職できません。雇用契約書、身元保証所に基づき本人と保証人へ法的な手段を取る事を検討します」と返事があった。

翌日、会社の人事部長から電話があり、契約書に自己の都合では辞められないという規定があるはずだ、「損害も出ており、結局当日は店長が代わりに入ったので、店長も体調を悪くしており、損害賠償も請求できる」と主張された。そればかりか、退職させることはできないから、シフトに来ないのなら、家や学校などに行って「連れ出す」とまで言われた。

電話は毎日、非通知などで執拗にかかってきた。こうした圧迫によりBさんは悩み、体調まで崩してしまった。もともとアルバイトと就職活動で過労気味ではあったが、会社から電話が何度もかかってきたことで精神的にも追い詰められ、病院に行ったところ、退職を拒まれたことによる「神経過敏状態(不眠、不安に伴う呼吸困難等)」と診断された。

ブラックバイトへの対処法

「しゃぶしゃぶ温野菜」や「ファミリーマート」という全国的に名の知られたチェーンの店舗であってもブラックバイトになる可能性はある。では、これから働く学生はどうすればよいだろうか。

そもそも、事前にブラックバイトを見分けることは、なかなか難しい。もちろん、自分でその職場に足を運んで雰囲気を見てみたり、すでにバイトしている友人から職場の状況について話を聞いたりすることで、職場がブラックかどうかを考える要素にはなるだろう。

しかし、すでに述べたように、はじめは普通でも、突然ブラックバイトになる場合もある。また、「就職活動に配慮する」などと、面接では優しい対応をしていても、実際には違っていることもある。そのため、トラブルに巻き込まれてしまった時に適切に対応できるかどうかが重要になってくるのだ。

学生からアルバイトに関して寄せられる相談で多いのは、「勝手にシフトに入れられた」というものだが、そもそも、どのくらいシフトに入るかが最初の契約時に決められていれば、それ以上出勤する必要性はない。さらに、「入れない」と言っているのに勝手にシフトに入れられた場合、出勤しなくても法律的には全く問題ない。

仮にシフトにあらかじめ同意していたとしても、合理的な理由があれば休むことができる。学生の場合には、テストや就職活動など、どうしてもアルバイト休まなければならない場合がある。そうした場合には、あらかじめ出勤を約束していたとしても、休むことに合理性があるので、欠勤を理由に損害賠償が成立することはないのだ。

また、罰金・ノルマ・自腹購入があり、お店の商品を買わせられそうになった場合は拒否して構わないし、勝手に売りつけてきて給料から天引きされていたら、その分を後で請求することができる。もしその商品を食べてしまい、なくなったとしても請求はできるので心配することはない。

給料が払われない場合も同様だ。会社は給料を1分単位で支払う義務があるので、15分単位で切り捨てられていたり、シフトで決められた時間分以上に働いていたのに無給になっていたりすれば、その時間分の給料を支払うよう請求できる。

「おかしい」と思ったら、証拠をとって相談を

ブラックバイトにはきちんと対処すれば、必ず会社に非を認めさせ解決することができる。

しかし、職場では学生はどうしても立場が弱い。おかしいと思っても、「お前は社会が分かっていない」「そんな姿勢ではどこでも通用しない」などと「説教」をされてしまい、何も言えなくなってしまうことがほとんどだろう。

そのため「おかしい」と思ったら、まずなによりも専門家にアドバイスを求めることが大切だ。私たちNPO法人POSSEをはじめ、労働組合や弁護士などが無料で相談を受け付ける窓口を設けている。こういった労働問題の専門家に相談することで、アルバイト先のどういった点が問題で解決できるのかを考えることができる。実際に行動を起こさなかったとしても、相談し、自分の職場の状況が一般的に見てどんなものなのかを知るだけでも、気が楽になるだろう。 

その際、出来る限りたくさんの証拠があるとベターである。入社時に結んだ契約書や労働時間の記録(メモやタイムカードの写メなど)、パワハラであれば録音などがあると、話がかなりスムーズに進み、職場改善のための大きな「武器」になる。

会社に言われるがまま働き続けて体を壊してしまったり大学にいけなくなって単位が取れなくなったりと手遅れになる前に相談してほしい。   

また、本人からでなくとも、子どものアルバイトを心配する親や知人からの相談も受け付けている。親に心配をかけまいとバイト先の状況を親に言っていない学生も多い。アルバイトで子どもの帰りが遅くなったり落ち込んでいたりすれば、ブラックバイトの可能性がある。

自分や知人、子どもがブラックバイトに巻き込まれる前にぜひとも相談にきてほしい。

ブラックバイト対策のノウハウがわかる本

『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)

*この本では、ブラックバイトの実態や対処法を余すところなく解説されている。

『ヤバい会社の餌食にならないための労働法』(幻冬舎文庫)

*この本では、とにかく簡単に、労働法の「使い方」を解説している。

無料労働相談窓口

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/

ブラックバイトユニオン

03-6804-7245

info@blackarbeit-union.com

http://blackarbeit-union.com/index.html

ブラック企業被害対策弁護団(全国)

03-3288-0112

http://black-taisaku-bengodan.jp/

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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