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エステ大手でまた労基法違反 どうすれば違法をなくせるのか?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

違法企業が日本社会全体に蔓延している。電通事件は大きな話題になっているが、その後も三菱電機など、大手企業の違法行為が次々に明らかになっている。電通ではかつて過労自殺事件が大きな問題になったにもかかわらず、その後も自殺者を2人も出し続けた。違法が摘発されても、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということが繰り返されてきたのだ。

そこで、本記事では、労基法違反事件の摘発から、継続的な改善を目指している事例を紹介したい。その事例とは、エステ業界で業界大手企業と団体交渉を行っている「エステ・ユニオン」の取り組みだ。

エステ業界にも労基法違反企業が氾濫しているのだが、「エステ・ユニオン」の取り組みは違法行為を行政に申告すると同時に、交渉によって継続的な改善を求めていくところにある。現在進行中の具体的なケースを見ていこう。

また大手企業で労基法違反

11月16日、「男のエステ ダンディハウス/エステティック ミスパリ」を運営するエステ業界大手、株式会社シェイプアップハウスの違法残業、賃金不払いといった労働基準法違反について、労働基準監督署が是正勧告(行政指導)を出していたことが、エステ・ユニオンの記者会見によって明らかにされた。

エステ・ユニオンブログ「業界大手 ダンディハウス/ミスパリへ労働基準監督署が是正勧告を出しました!」

「男のエステ ダンディハウス/エステティック ミスパリ」を運営する株式会社シェイプアップハウスは、創立32年、店舗数は国内外に150店舗、従業員数約1200名、売上高181億円(2017年リクナビ企業情報ページ参照)というエステ業界大手企業であり、リーディングカンパニーの1つである。

会見したAさんの労働環境

まず、是正勧告が出された職場の実態をみていこう。エステ・ユニオンによると、会見をした元従業員のAさん(20代、女性)は、定時の前と後に30分から1時間ほど業務を行っており、休憩も1時間取れず、多い月では残業は64時間という長時間。しかし、それに対する残業代は一部しか支払われておらず、未払いの賃金は2年間でおよそ155万円にも上るという。Aさんが労働基準監督署へ通報した内容の詳細は以下のようなものだった。

(1)長時間労働(1日の流れ)

平日は定時の前後でおおよそ30分(土日は忙しいので前後1時間)ほど定時外の勤務をしていた。具体的には、定時前は、朝の準備や、お客への対応検討、1日の予約の確認、レジの現金合わせ(昨晩とのズレを確認)などを行っていた。また、早朝に勉強会があったこともあった。

また、定時後には、顧客の延長、締め作業、1日の在庫確認(全部の商品のズレを確認)、顧客カルテの記入などを行っていた。

(2)労働時間記録の偽装

今年の6月までは、パソコンに労働時間を入力する形式で労働時間管理がなされていたが、上司が他の従業員の分をまとめて入力しており、Aさんが代わりに入力していたこともあった。また、形式的に月末に開店時間をまとめて入力していたため、実際の労働時間を反映していなかった。

今年の6月以降は、バーコード型の勤怠管理システムが導入されたが、定時2、3分前になるとサロンにある会社の携帯電話のアラームが鳴り、後輩スタッフが他の従業員のカードを集めて定時とほとんど変わらない時間に打刻させられ、その後に業務に従事していたため、結局実際の労働時間で打つことができなかった。

(3)休憩未取得

Aさんは、休憩時間中もサロンから出られず、休憩中に電話対応、後輩の質問に答える、顧客カルテの記入などの業務をしており、1日平均30分ほどしか休憩を取ることができなかった。

(4)賃金未払い

上記のとおり、早出・休憩・残業で時間外労働が発生しているが、時間外労働に対する賃金はほとんど払われていなかった。稀に、定時よりかなり遅くまで残業をした場合に限って、30分や60分など大まかな時間数を残業として上司が申請させくれたことがあったが、それ以外は基本的に残業代の支払いはなかった。

「ユニオン」は、違法を繰り返させない

Aさんとユニオンが上記の問題について労働基準監督署へ通報をしたところ、監督官がAさんの働くサロンを調査し、(1)1日8時間以上の労働に対して残業代としての割増賃金が支払われていないこと、(2)休憩時間が法定通り1時間取得できていないことという労働基準法違反の事実が確認されたため、改善を求める是正勧告が出された。

今回、是正勧告が出たということは、会社の休憩未取得、残業代不払いを国が明確に違法と判断したということである。

ここで重要なことは、二点ある。一つは、このような改善要求が「個人」ではなく、職場の労働者たちの組織である「ユニオン」(労働組合)によって組織的に行われたということだ。労基署の申告には、労働者自身が証拠を集める必要があるなど、一定のハードルがある。

Aさんも、個人では申告することが難しい中で、ユニオンに加入することで、仲間や専門家の助けを借りて申告することができた。労使交渉のプロが加わり、組織的に行ったことが、行政を動かす決め手となったのだ。

ユニオンの取り組みの意義はそれだけではない。第二に、実は、労基署に対する申告の以前から、エステ・ユニオンは会社の違法行為を指摘し、改善に向けた話し合いを進めてきた。そうしたこともあって、会社側は今回の違法行為をすぐに認め、改善する姿勢を示している。これも、個人で会社を動かすことは難しいのに対し、組織的に交渉してきた成果だろう。

さらに、冒頭で指摘したように、違法行為が摘発されることで一時的には改善されても、その後元に戻ってしまうケースは後を絶たないのだが、会社の労働者が継続的に加入するユニオンでは、今後も会社と話し合いを続けていくことで「元に戻る」ことを防止する。新たな違法行為が確認されればすぐに改善を求めていくことになるというわけだ(尚、労働組合に相談・加入したとしても、そのことが会社側に明らかになることはない)。

エステ業界全体に問題が広がっている

今回のAさんのような労働環境は、エステ業界では珍しいものではない。

エステ・ユニオンには、ダンディハウス/ミスパリだけでなく、他の大手企業からも多くの相談が寄せられているが、長時間労働、休憩未取得、残業代不払いは共通する問題になっている。また、残業の自己申告ができない、タイムカードの退勤前打刻、他の従業員のタイムカードの一斉代理打刻等によって、実際の労働時間よりも少ない時間しか記録できないという労働時間管理の偽装も多く見られる。

エステ・ユニオンでは、今回のように、労基への申告手続を支援しており、この支援の結果、多くの是正勧告が出され、労基法違反の労働環境が改善されてきた。

同時に、会社との交渉(団体交渉)を継続しながら、全社的改善を進めて、労使の正式な取り決めである「労働協約」の締結をする企業も出てきている(たかの友梨、TBCなど)。違法行為を指摘し、行政が指導するだけではなく、労使交渉による「継続的な改善」が新しい解決策として、広がってきているのである。

ぜひユニオンへの相談を

会社に対して、労働環境の改善を求めることは1人では怖いことだが、ユニオンには同じ問題を抱えた従業員が多数加入しており、専門家とタッグを組んで、粘り強く会社と改善に向けた交渉を続けている。

今の会社に在職しながら交渉する以外にも、退職する際や退職後に、過去の不払い残業代などを請求することもできる。請求行為を行うことによって、今残っている従業員やこれから入社する新入社員へ良い環境を作ることもできる。もちろん、エステ以外の労働者にもユニオンは相談の窓口を開いている(末尾に相談窓口一覧)

違法行為には一人で悩まずに、積極的にユニオンを活用してほしい。

このような取り組みが広がっていけば、繰り返される違法行為を、根本的に減らしていく決め手になることだろう。

無料相談窓口

エステ・ユニオン

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日本労働弁護団

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http://roudou-bengodan.org/

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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