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アルバイト先での罰金、どう対処すればよいのか?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

東京・武蔵野市にあるセブンイレブンで、アルバイトの高校生が病欠したところ9350円の罰金を徴収されたことが話題になっている。給与天引きという方法や罰金の理由、その金額など複数の観点から労働基準法への違反が指摘されているのだ。

私は、今回の騒動は氷山の一角でしかないと考えている。私が代表を務めるNPO法人POSSEにも、不当に罰金を徴収されたというアルバイトからの相談が後を絶たない。病欠に関するペナルティだけでなく、笑顔が作れていないこと、お皿を割ってしまったことなどを理由に、罰金を科すケースさえある。

また、今日は節分の日であり、コンビニ各社では「恵方巻」が大量に販売されている。明日には大量の売れ残りが発生すると思われるが、例年そうした売れ残りの買取強制が問題となっている。

ノルマや罰金への対処法をぜひ知っておくべきだろう。そこで、今回は、不当な罰金の被害事例を検討したうえで、その法的論点や対処法を解説することにしたい。

不当な罰金の被害事例

コンビニのレジ違算金

大手コンビニチェーンのフランチャイズ店舗のケース。シフトの交代時にレジに誤差が無いかどうかを確認し、レジに誤差があった場合、そのシフトに入っていた2~3人のアルバイトで折半させて支払わせるようにしていた。店側はレジの誤差と「自己負担金額」を記入する欄を設けたチェック表を作成しており、確信犯的に罰金を徴収していた。

飲食店の皿の破損や接客トラブル

東京都内の飲食店のケース。この店舗では、皿を1枚割るたびに、罰金として500円給与から天引きされる。また、お客さんに、誤って飲み物をかけてしまった場合のクリーニング代についても、アルバイトが全額負担させられている。いずれも故意ではなく、注意を払ったうえで起きた「事故」だという。

法的論点

(1)給与天引きは違法

大原則として、罰金の理由や金額を問わず、給与から罰金を天引きすることは違法である。労働基準法24条1項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めている。

会社は賃金を全額支払う義務があるため、給与から罰金を控除することは、いかなる場合にも認められない。逆に、この原則を破って給与から罰金を天引きした場合、使用者は刑事罰を受ける可能性がある。

(2)損害賠償タイプの罰金

つぎに、給与の天引きではなく、罰金の支払いを請求する行為はどうか。会社がアルバイトに対し、損害の賠償を請求すること自体は違法にはならない。だが、それはあくまで「請求しても罰せられない」というだけだ。

実際には、多くの場合、アルバイトはそうした要求に対して応じる義務はない。というのも、上記の例に挙げたような損害(レジの誤差、皿の破損など)は、業務に関する経費として、会社が負担すべきものだからである。故意に損害を与えていない限り、アルバイト側に賠償責任は発生しない。もしそれらの賠償責任が本当に発生するとしたら、恐ろしくて学生はアルバイトに従事することなどできないだろう。

また、労働相談の中にも、執拗な請求が行われている事例が多々見られるが、そのようにして支払われた金銭は「強迫」または「詐欺」(責任がないのに責任があると思い込また)によって支払われたものだから、アルバイト側は返還の請求ができると考えられる。

さらに、そのような正当ではない「請求」をあまりしつこく、あるいは威圧的・暴力的行った場合、使用者が刑法上の責任を問われる可能性も否定はできない。

(3)懲戒規定を利用した罰金

一方で、会社は就業規則の中で「減給」という制裁を定めることができるが、濫用を防ぐために厳しい縛りがかけられている。「減給」はあらかじめルールとして社内で定められている制度なので、一方的な「天引き」とは異なる点に注意が必要だ。

これが合法になるためには、まず、就業規則の中で懲戒事由とその制裁の種類と程度を定められていることが求められる。ルールを定めずに、「懲戒する」(罰する)ことはできないというのが大前提だ。

次に、定めた就業規則の内容が合理的であることが求められる。たとえ不合理な内容の「ルール」を定めても、それは無効だということだ。先の例に挙げたように、皿を割ったことで賠償が発生するなどいう懲戒事由を定めていたとしても、そもそも「無効」だと判断される可能性が高いのだ。

そのうえ、1回当たりの減給額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が月給の10分の1を超えてはならないという、金額面での縛りがある。

こうした縛りを全てクリアする形で合法的に制裁が行われるケースの方が珍しいくらいである。今回の高校生の天引き事件がいかに無法なやり口であったかが、よくわかるだろう。

違法な罰金制度への対処法

それでは,こうした違法あるいは不当な罰金に対し、私たちはどのように対応したらよいのだろうか。その対応方法をいくつか挙げておこう。

(1)証拠を残す

罰金を徴収されそうになった際に、何より重要になるのはその証拠だ。今回問題となったセブンイレブンのアルバイトの学生は、給与明細とその写真を証拠として確保していたため、既に全額返金されたという。

不当に罰金を徴収される危険がある際に、証拠保全のために録音や撮影をすることは全く問題がない。少しでもおかしいと感じたら、証拠を残すことを意識してほしい。

(2)専門機関への相談

労働基準監督署への通報

労働基準法違反の場合には、労働基準監督署に相談することが有効だ。罰金が給与から天引きされるケースや、不当な懲戒処分として罰金が徴収されたケースでは、労働基準法違反が明確であるため、労働基準監督署が動いてくれる可能性がある。

だが、最も多発している損害賠償タイプの罰金については、労働基準監督署の管轄外である(賠償予定の問題を除いて)。また、労働基準監督署は、証拠がはっきりしていないと動けないというディレンマも抱えている。

労働組合(ユニオン)に相談

労働組合(ユニオン)は、上記のいずれのタイプの罰金徴収であっても、対応することができる。労働組合は、労働条件に関わることであれば、何でも取り扱えるからだ。

また、労働組合が交渉を申し込むと、会社はこれを拒むことができないことになっている(労働組合法)。労働基準監督署は人員不足からなかなか対応してもらえない場合も多いのに対し、労働組合の場合には、加入したうえでアドバイスを受け、自分自身が中心となって交渉することも可能だ。

労働基準監督署とは異なって、自分の代わりに解決してくれる機関ではないが、問題を改善したいという気持ちを最大限サポートしてくれるのが労働組合なのだ。

ただし、労働組合の中で学生アルバイト問題に取り組んでいるところは少ない。末尾に紹介するリストを参考にしてほしい。

解決事例

では、実際にユニオンは、罰金問題をどのように解決しているのだろうか。学生アルバイトたちが作る労働組合である「ブラックバイトユニオン」のホームページから事例を一部抜粋して紹介したい。

解決事例

大学三年生のCさんは、働いていた都内のコンビニのある「ルール」に疑問を持ちました。その店舗では、レジの違算が出た場合に、レジ打ちのアルバイトが自己負担で補てんすることになっていたのです。

また、クリスマスケーキなどの販売ノルマがあり、ノルマを達成することが出来なければ、自腹で購入しなければなりませんでした。

Cさんは、ブラックバイトユニオンのメンバーと一緒に店舗に行き、店長と直接話し合って、補てんさせられた違算分と、自腹で払わされたクリスマスケーキなどの代金の合計約3万円をその場で取り返すことが出来ました。

最後に

今回紹介した罰金の問題は、職場の他のトラブルとも結びついていることが多い。罰金を不当に徴収するような職場では、ハラスメントや人間関係のトラブルも生じやすい。また、こうした順法意識の欠けた会社は、往々にして賃金の支払いにも問題を抱えている。

そして、ちょうど今日は節分の日。明日は、コンビニ各社とも、大量の売れ残った恵方巻の処分に困ることだろう。

「お前は恵方巻のノルマを達成できなかった」といって、罰金の支払いや売れ残った商品の買取の強要が全国で発生することが強く懸念される(例年相談が寄せられるのだ)。

だからこそ、今後も不当な罰金の徴収について、行政が取り締まったり、ユニオンが交渉で改善したりすることは大変重要である。不法な罰金を許さないという社会全体の意識と姿勢が、職場の違法状態の改善に繋がっていくことを期待したい。

【ブラックバイトに関する無料相談窓口】

いずれの団体も、この間の報道により、相談電話は混み合うことが予想されるので、繋がらない場合はメールで連絡をとるとよいだろう。

ブラックバイトユニオン

03-6804-7245

info@blackarbeit-union.com

http://blackarbeit-union.com/index.html

*ブラックバイト問題に対応している個人加盟ができる労働組合。

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

ブラックバイト対策弁護団あいち

052-211-2236

札幌学生ユニオン

sapporo.gakusei.union@gmail.com

http://sapporo-gakusei-union.jimdo.com/

首都圏学生ユニオン

03-5359-5259

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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