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「ジェネリック家電」という言葉に潜む罠

鴻池賢三オーディオ・ビジュアル&家電評論家

【2014年1月21日追記】

「ジェネリック家電」は「集英社」および「ジェネリック家電推進委員会」関係者様の商標である旨、ご指摘を頂きました。

文中、「ジェネリック家電推進委員会」が推薦される優良なジェネリック家電と格安家電とを混同し、関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫び致します。

【2014年1月15日掲載(原文)】

最近、「ジェネリック家電」という言葉を聞く機会が増えた。「ジェネリック家電」とは、効き目が同じで低価格なジェネリック医薬品(後発医薬品)から着想を得たと思われる造語。真意は不明だが、概ね、規模を問わず専業メーカーの人気製品に似た機能を持ちつつ、家電の開発や製造を専業としない企業が安価に販売する「格安ブランド」の製品を指す。

専業メーカーとは"価格差"が競争力であるため、比較的高価な製品ジャンルが対象となりやすく、具体的には、ロボット掃除機、サイクロン式掃除機、LED照明などに集中している。今後は4Kテレビもターゲットになりそうだ。

果たして、「ジェネリック家電」はお買い得なのだろうか? 「ジェネリック」という言葉を深く考えてみる必要がある。

「ジェネリック家電」の主張

まず、「ジェネリック家電」と謳う業者の主張を整理しておこう。

・機能は必要最小限。不要な機能を省いて安価に。

・旧世代の技術や部品を使用。

・広告費を掛けない。

こう言われると「なるほど!」と納得しがちで、「専業メーカーはボッたくりだ!」のような風潮が生まれても不思議はない。しかし、これらは"嘘"ではないものの、低価格を実現している要素の"全て"ではない点に注意が必要だ。

専業メーカー製品の"価格"に含まれるもの

では、対抗となる、専業メーカー製品の価格について考えてみよう。

筆者の業界経験では、「格安ブランド/ジェネリック家電」に対して「品質」にアドバンテージがある。

具体的には、故障しても"安全"を確保するという確固たる「方針」と、それを実現する「技量」を持っている。電気を扱う家電製品は危険を伴う。例えば、故障しても火災には繋がらないなど、安全面への配慮は最優先事項だ。意図して危険な製品を作る業者はいないとしても、"うっかりミス"は起こりえる。その点、専業メーカーが長年蓄積してきた経験とノウハウには一日の長がある。

次に業界用語で言う信頼性の高さ。言い換えると故障率の低さだ。大手では製品に対し、落下の衝撃、輸送時の振動、耐熱、耐寒、耐湿など、品質に関わる厳しい社内基準を設け、設計段階から試作品による確認を行い、また、製造工程での検査、出荷前の抜き取り検査も、サンプル数やチェック項目が多いなど、ハードルが高い。また、社外から購入する部品に対しても品質基準を持ち、部品変更が生じた際は、確認と承認を必要とするシステムになっている。

つまり、故障の要因が少なく、故障しても安全で、修理対応もでき、万が一生命に関わる重大な問題が生じた際は「リコール」という形で広報がなされ、修繕や回収が行われる。

一方、「格安ブランド/ジェネリック家電」の場合、不良品対策が全般的に手薄だ。筆者は海外から家電を輸入して日本で自社ブラントとして販売する輸入商社のコンサルタントを務めた経験があるが、取引のあった中国工場は有名企業も含め、そもそも品質基準が低く検査も手抜きが横行する。機能を追加したのに電源容量のアップを怠って過熱するといった設計段階の甘さから、コストダウンが目的と思われる部品の無断変更まで、枚挙に暇がない。当然、販売された製品は故障を起こす確率が高い。

専業メーカーの製品価格には"安心代"が含まれていているのだ。

機能面でも注意が必要だ。例えばロボット型掃除機は、iRobot社の「ルンバ」が有名だ。高価ながら売れ行きも良く、「ロボット掃除機」の市場を確立した。これは、きちんと掃除できる能力が認められたからに他ならない。ところが最近、ルンバの数分の1の価格、1万円以下で販売されている製品が続々と登場している。これらは、外見こそ似ているが、掃除能力には大きな差があり、賢い買い物とは言い難い製品が多い。折角買った掃除機が、ゴミ箱へ直行ではもったいない。

他にも、操作感や騒音など、感性に関わる部分でも違いが存在する。

専業メーカーの製品には、多少の例外があるにせよ、きちんとした機能性と働きが期待できる。

「ジェネリック家電」の言葉に潜む罠

筆者の考える最大の落とし穴は、「ジェネリック家電」という巧妙なネーミングである。

認可制度の厳しい医薬品における「ジェネリック」は、安全性と効き目が保証されている。よって、「ジェネリック家電」は、そのネーミングから「旧世代の技術と部品を使って必要最小限の機能だから安い」という謳い文句を信用し、品質や機能面で劣る可能性を見落としがちだ。

しかし、医薬品のジェネリックとは何の関係も無い。「ジェネリック家電」と言うに厳密な定義はないので解釈も自由だが、「格安ブランド」に比べ、優良と誤認させる可能性が高いのが心配である。

消費者においては、「ジェネリック」と言う言葉に惑わされず、格安ブランド製品と同様に、疑いの目を光らせ、ある程度の覚悟が必要である。

また、情報を発信するメディア関係者においては、キャッチーな言葉とばかりに乱用せず、充分に注意して欲しいと思う。

格安ブランドは"お得"か?

筆者が伝えたいのは、「ジェネリック家電」と言う言葉に注意して欲しいと言う点であり、格安ブランド製品を全否定する積もりは無い。

鋭い選球眼を持つ消費者や用途によっては、選択肢となり得るだろう。

しかし、一般論として格安ブランド製品は”お得”なのだろうか?

筆者の場合、原則として、格安ブランドの家電を購入しない。過去の経験上、性能を含む使い勝手や使い心地の微妙な悪さ、1年の製品保証期間を超えてからの故障、ドラブル時に費やす時間や労力を考えると、安価でも割に合わないと考えるに至ったからだ。

「安物買いの銭失い」は家電にこそピッタリあてはまる。目先の価格に惑わされず、スマートで楽しい家電ライフを送りたいものだ。

オーディオ・ビジュアル&家電評論家

AV機器メーカーで商品企画職を務めた後、米シリコンバレーのマルチメディア向け半導体ベンチャー企業を経て独立。オーディオ・ビジュアル評論家として専門誌などで執筆活動を行うほか、エレクトロニクス 技術トレンドに精通し生活家電を含むホームエレクトロニクス、ネットワーク家電、スマート家電の評価、製品の選び方、賢い使い方、および未来予想をメディアを通じて発信中。NHKほかテレビ出演も多数。ビジュアルグランプリ(VGP)審査副委員長/米ISF認証ビデオエンジニア/米THX認証ホームシアターデザイナー/一般財団法人家電製品協会認定家電製品総合アドバイザー/甲種防火管理者

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