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寒い!エアコン暖房は"損"?

鴻池賢三オーディオ・ビジュアル&家電評論家

家庭でのエアコン暖房について尋ねると、中高年者を中心に、「電気代が高い」、「暖かくならない」、「出てくる風が冷たい」、とネガティブな意見が多い。こうした消費者の多くは、石油ファンヒーターを利用しているケースが多く、燃費(光熱費)の観点からも、エアコン暖房より石油ファンヒーターの方が有利と考えているようだ。

しかし、今や、この認識は正しいとは言えない。エアコン暖房の過去と今を考えてみた。

エアコン暖房 "罪悪感"の理由

中高年にとって"贅沢"は"敵"である。40歳代半ばの筆者もそう教えられて育った。資源節約という壮大な視点ではなく、単純に家計における電気代の節約だ。

冷房も暖房もできる「エアコン」が登場したのは1972年。この頃のエアコンは、暖房能力や効率が低く、また住宅の気密性も低かったため、暖房機としては非力に感じられた。また、石油ストーブの燃料である灯油が安価だったため、光熱費の観点からも、エアコンより石油ストーブが圧倒的に有利だった。

過去の事実から、中高年者の持つ、エアコンは「電気代が高い」、「暖かくならない」、「出てくる風が冷たい」というイメージは間違っていない。未だに、エアコン暖房に"罪悪感"を持つ消費者がいても、何ら不思議は無いのだ。

今、エアコン暖房が有利な訳

エアコンの登場から40年余り。技術も世界情勢も大き変わった。今は、エアコン暖房が最も有利と言えるのは、以下の理由からだ。

  • エアコンの暖房効率向上

エアコン暖房の原理は、大気中の熱を圧縮して利用するという画期的な発明に基づく。電力をそのまま熱に変換するヒーターに比べると、同じ消費電力で得られる熱量は数倍も高い。また、技術も進歩していて、新しい製品ほど省エネ性能が高い。部屋全体の空気を温める場合、電気ストーブよりエアコンが圧倒的に有利である。

  • 灯油価格の高騰

灯油価格はこの10年で約2倍に高騰している。10年前は、灯油の安さに加え、エアコンの暖房効率もまだ発展途上であったため、石油ストーブやファンヒーターの方が、光熱費が安くなる可能性があった。

以下サイトでは、筆者が計算によって検討した結果を掲載している。

結論: エアコンが圧倒的に有利 石油ストーブを検討するのは、1000円/18L以下になってから。

出典:DAC Japan - エアコンの電気代 VS 石油ファンヒーターの灯油代

省エネ性能がそれほど高く無い10年前のエアコンを使用している家庭でも、灯油の価格が18リットルあたり1,000円を下回らない限り、石油ファンヒーターよりも、エアコン暖房の方が光熱費がお得な可能性が高いのだ。(気温や住宅の気密性など、詳細条件は上記サイトを参照頂きたい)

最新製品でなくとも、エアコン暖房がお得になるケースは多い。意外ではないだろうか?

さらに、エアコン暖房なら、人間の手で燃料の補給や換気が要らず快適で、温度の自動調整やタイマー動作もでて使い勝手が良い。

最新エアコンは、もっとスゴイ!

過去、気温が数度以下だと、エアコンの暖房効率は低下したり、運転を止めて霜取りが必要など、関東圏から北の寒冷地では不利な点も多かった。こうした地域では、石油やガスの暖房が断然有利だった。

しかし、最新のエアコンは、こうした寒冷地でも充分な暖房能力が発揮できるほど進化している。「電気代が高い」、「暖かくならない」は、今やエアコン暖房に当てはまらない。

さらに、出てくる温風もドライヤーのように暖かく大量に吹き出して来る。「出てくる風が冷たい」も、もう当てはまらない。

さいごに

エアコンの弱点も述べておこう。10年前くらいのエアコンは、やはり暖房能力が弱い。空気の冷たい寒冷地では、省エネ性能も発揮できず、部屋が暖まるまでにかかる時間も長い。ガスや石油のように、運転直後からポカポカとは行かない。

また、部屋全体でなく、手足を温めたい場合は、電気ストーブやこたつで局所的に暖房する方が手っ取り早く、消費電力が少なくて済む場合もある。

過去の常識やイメージに囚われず、エアコンの進化を受け止め、石油、ガス、電気ストーブなどと上手く組み合わせ、省エネで快適な暖房を心がけよう。正しい知識があれば、同じ光熱費でもっと暖かく過ごせる。無闇に寒さに我慢する必要は無いのだ。

オーディオ・ビジュアル&家電評論家

AV機器メーカーで商品企画職を務めた後、米シリコンバレーのマルチメディア向け半導体ベンチャー企業を経て独立。オーディオ・ビジュアル評論家として専門誌などで執筆活動を行うほか、エレクトロニクス 技術トレンドに精通し生活家電を含むホームエレクトロニクス、ネットワーク家電、スマート家電の評価、製品の選び方、賢い使い方、および未来予想をメディアを通じて発信中。NHKほかテレビ出演も多数。ビジュアルグランプリ(VGP)審査副委員長/米ISF認証ビデオエンジニア/米THX認証ホームシアターデザイナー/一般財団法人家電製品協会認定家電製品総合アドバイザー/甲種防火管理者

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