Yahoo!ニュース

テレビの未来?!驚異の立体音響「ハイレゾ3D」を聴いた!

鴻池賢三オーディオ・ビジュアル&家電評論家
毎日放送 放送運営局 送出部マネージャー 入交英雄氏

放送は8K(スーパーハイビジョン)に向けて着実に前進している。スーパーハイビジョン放送は、8Kの高精細映像に加え、22.2chのサラウンドサウンドもトピックだ。

映像だけが良くてもダメ、音だけが良くてもダメ。エクスペリエンスを高めるには、映像と音のバランスが重要で、かのジョージ・ルーカス監督も「映像と音はフィフティー・フィフティーであるべき」と説いている。

毎日放送 放送運営局 送出部マネージャー 入交英雄氏
毎日放送 放送運営局 送出部マネージャー 入交英雄氏

テレビ局や関連する制作会社には、音声の収録やミキシングなどに携わる「音屋」と呼ばれる仕事人がいる。筆者の知る限り、「音」に拘りを持つ熱心なエンジニアが多い。趣味と実益を兼ねた・・・といった所だろうか。

中でも、地上デジタル放送で可能になったサラウンド音声の制作で先駆者と知られ、近年は特に、放送における次世代音声のありかたについて模索し続けているのが、毎日放送 放送運営局 送出部マネージャーの入交英雄氏だ。

同氏が現在、実験的に取り組んでいるのが、「ハイレゾ3Dサラウンド」である。

「ハイレゾ3Dサラウンド」とは一体何だろうか?視聴者はどのような体験を得られるのだろうか?

今回は、2015年2月に毎日放送(大阪市北区)のAVルームにて、業界人向けの研究発表の場として設けられた「ハイレゾ&3Dサラウンド試聴会」に参加し、「未来の音」を一足早く体験してきた。会場の模様、立体感、今後の展開についてレポートする。

【360度 音に包む込まれる快感!】

入交氏が取り組む「ハイレゾ3Dサラウンド」の「3D」は立体を意味する。従来の5.1chといったサラウンドシステムは、視聴者を主に側方から5本のスピーカーで取り囲むので、2次元的(2D/平面的)な性格を持つのに対し、3Dは天井付近にもスピーカーを設置して、プラネタリウムのように視聴者を全方位から包み込む。

また、同氏の「3D」は、単にスピーカーが増えただけではなく、収録時に高い位置にマイクを追加設置するなど、リアルさを追求しているのが特徴だ。

音質もCDクオリティーを超える「ハイレゾ」に高め、臨場感の向上を探求している。

視聴者を取り囲むスピーカーは上下2段で計9個
視聴者を取り囲むスピーカーは上下2段で計9個

試聴会が開催された毎日放送の地下1階にあるAVルームは、座席数が60程と小規模映画館のように立派なもの。試聴会では特別に、正確な音の再現で定評があり、スタジオや制作現場でも導入事例の多い、富士通テン製のECLIPSE(イクリプス)スピーカーが、5.1chをベースに、4本の「ハイトスピーカー」を加えた9.1ch分設置され、入交氏が録音を手がけた「ハイレゾ&3Dサラウンド」音源のデモンストレーションが行われた。

2日間に渡り、計5回開催された試聴会は満席。参加者は熱心に聴き入っていた。
2日間に渡り、計5回開催された試聴会は満席。参加者は熱心に聴き入っていた。

神戸松蔭女学院大学の教会で名倉誠人氏が演奏するビブラフォンとマリンバを9.0chで録音した音源は、天井が高く残響時間が長い教会独特の雰囲気に包み込まれつつ、楽器の音色も明瞭で響きも美しい。

ハーモニーホール座間で録音された冨田勲氏の「源氏物語幻想交響絵巻」を9.0chで録音した音源は、語りも邦楽器の音色も鮮明。ホール居合わせたかのように、全身がホールトーンに包み込まれる感も心地良い。ハイトスピーカーを活かしたミキシングによる演出も効果的で、空中を音の塊が移動する様子が目に見えるかのようだった。

年末の恒例行事となった、大阪城ホールで開催される「1万人の第九」は圧巻の一言。スピーカー2台を用いる「ステレオ」と「9.1ch」の聞き比べが行われたが、ステレオでは10人か20人の第九・・・が、9.1chでは明らかに大勢が歌っている雰囲気が伝わってくる。今後、映像が8Kへと進化し、細部まで見通しが良くなれば、音も「ハイレゾ&3Dサラウンド」級が相応しいと思えた。

【実用化と普及に向けた課題】

今回の試聴会では、9.1chシステムによる「ハイレゾ&3Dサラウンド」の臨場感を多いに体感できた。制作側は負荷が高そうだが、コンサートやスポーツ中継なら「音屋」の皆さんの頑張りで何とかなりそうだ。今後、実験を通じて効果的な収録方法および編集方法が確立されれば、ハードルも徐々に下がるだろう。

ネックは、一般家庭で天井を含む9.1chのスピーカーをどのように設置するか・・・である。筆者は日本オーディオ協会に所属し、「デジタルホームシアター普及委員会」の委員として活動するなど、常日頃から普及への足がかりを模索している。

今回、入交氏とも意見交換を行ったが、「住宅メーカーが鍵」という共通の認識を得た。住宅建築時に、映像とオーディオ機器を埋め込んでしまえば、見た目にもスマートで邪魔にもならない。

再生機器の操作方法の改善も必要だ。実は以前から、住宅メーカーとエレクトニクスメーカーの協業は度々持ち上がるものの、普及には至っていない。デモ用として、展示場にサラウンドオーディオシステムを導入しても、説明員が使いこなせないという理由で企画がボツになるケースも少なくない。また、サラウンドサウンド再生の要となる「AVアンプ」の操作は難し過ぎるのは事実で、実際、メーカーのエンジニアであっても、取扱説明書を読まなくては使い方が分からないケースがあるほどだ。

コンテンツが先か、再生環境の整備が先かは、ニワトリとタマゴの関係にも思えるが、設置のハードルと、機器操作のハードルを協調して下げるのが、サラウンド普及に向けた業界の課題と言えるだろう。

「ハイレゾ&3Dサラウンド」には、次世代エンターテイメントとしての素質がある。今後、普及に向け、業界関係者の取り組みに期待したい。

オーディオ・ビジュアル&家電評論家

AV機器メーカーで商品企画職を務めた後、米シリコンバレーのマルチメディア向け半導体ベンチャー企業を経て独立。オーディオ・ビジュアル評論家として専門誌などで執筆活動を行うほか、エレクトロニクス 技術トレンドに精通し生活家電を含むホームエレクトロニクス、ネットワーク家電、スマート家電の評価、製品の選び方、賢い使い方、および未来予想をメディアを通じて発信中。NHKほかテレビ出演も多数。ビジュアルグランプリ(VGP)審査副委員長/米ISF認証ビデオエンジニア/米THX認証ホームシアターデザイナー/一般財団法人家電製品協会認定家電製品総合アドバイザー/甲種防火管理者

鴻池賢三の最近の記事