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シェール革命で天然ガス埋蔵量は3割増、原油埋蔵量は1割増に

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

数年前までエネルギー業界の専門用語であった「シェール」は、今や新聞やテレビ等でも頻繁に見掛けるようになり、「シェール革命」という言葉もすっかりと市民権を獲得した感が強い。シェール層(頁岩層)からのエネルギー資源採掘は、天然ガスから石油分野にも広がり始めており、天然ガスのみならず世界のエネルギー需給見通しを一変させている。

マーケットでは依然として、シェール革命は「革命」と言うには値しないといった慎重な見方も根強い。例えば、その生産コストの高さから在来系原油に対する競争力はないといった指摘は、5月31日の石油輸出国機構(OPEC)総会でも聞かれた。また、シェール革命の鍵となるフラッキング(水圧破砕)技術に関しては、環境面(水資源)への負荷が大きいことで、その開発に二の足を踏んでいる国も少なくはない。

ただ少なくとも米国において、安価かつ大量のエネルギー資源を供給することに成功したことは事実であり、企業の生産コスト低下、生産拠点の米国回帰、新たな雇用創出といった様々な恩恵がもたされている。ブッシュ政権時代には脱石油をキーワードにバイオ燃料への傾斜が進められてきたが、オバマ政権はシェールガス・オイルへの傾斜姿勢を鮮明にしており、政策面からの後押しも強い。ブッシュ政権時代に果たすことができなかった「脱中東」が、当初想定されていたのとは違ったルートを辿って、あっさりと実現しそうな状況になっていることからも、この革命のインパクトの大きさが確認できよう。

シェール層の確認地域

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(画像出所:EIA)

■世界最大のシェールガス埋蔵国は中国

もちろん、こうした「シェール革命」の展開は米国以外でも大きな関心事となっており、特に欧州地区ではシェールガスの可能性が注目を集めている。自国競争力の強化といった経済的要因に加えて、ロシアへの依存度低下といった政治的要因もあって、「米国に続け」とばかりに革命の火種は世界各地に飛び火し始めている。

では、このシェール革命はどの程度の発展可能性を秘めているのだろうか?

この疑問に一つの答えを提示するレポートが、6月10日に米エネルギー情報局(EIA)から発表されている。EIAとしては、シェールガスとシェールオイルに関する初の包括的調査になる。

同報告によると、世界全体のシェールガス埋蔵量(技術的に回収可能な埋蔵量)は7,299兆立方フィート(約207兆立法メートル)とされている。シェール革命が始まった米国の埋蔵量は665兆立方フィートとなっているが、他にも中国に1,155兆立法フィート、アルゼンチンに802兆立方フィート、アルジェリアに707兆立方フィートなど、北米のみならずアジアや南米、アフリカ、欧州などにも豊富な天然ガスが眠っているとの見方が示されている。世界の天然ガス需給・価格環境を一変させた感が強い米国のシェールオイルですら、埋蔵量ベースではシェールオイル全体の僅か9%に過ぎず、この革命はまだ大きな発展余地を残している。

そしてそれ以上に注目したいのは、シェール革命が天然ガス埋蔵量全体を押し上げた幅である。いわゆる在来系(=非シェール)の天然ガス埋蔵量は、世界全体で1京5,583兆立方フィートとみられている。このため、シェールガスが技術的に回収可能になったことは、天然ガス埋蔵量が一気に47%も拡大したことを意味するのだ。今や、天然ガス埋蔵量の32%がシェールガスというのが、EIAの調査結果である。

■シェールオイルで石油埋蔵量は10%増に

またシェールオイルに関しては、世界全体の埋蔵量は3,450億バレルとされている。米国は580億バレルとなっているが、ロシア750億バレル、中国320億バレル、アルゼンチン270億バレルなど、こちらも世界各地に分散している。

在来系の原油埋蔵量が3兆0,120億バレルとなっているため、シェールオイルによって増えた埋蔵量は11%に過ぎない。液体の原油は気体の天然ガスよりも技術的なハードルが高いこともあって、米国以外ではまだ十分な開発可能性が確認できていない。その意味はシェールガス程のインパクトはないとも言えるが、それでも埋蔵量が一気に10%も増加したことに対しては大きなインパクトを認めざるを得ない。

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■技術可能性と経済可能性

あくまでも今回の調査は「技術的な可能性」を検証したものであり、実際に各国政府がシェールガスやシェールオイルの開発に踏み切るのか、米国並みの開発技術を獲得できるのかなどは不透明感が強い。EIA局長も、今回の報告書は「国際的なシェールオイルとシェールガスの可能性を示した」が、技術的な可能性が経済的な可能性にまでつながるのかは不透明であることを認めている。

例えば、中国は5月14日に公表された政府文書において、初めてシェールガスの開発を本格化する政府方針を示している。ただ、米国の強力なくして自国技術のみで開発する能力は有しておらず、技術協力を巡る協議が進まなければ、「シェール革命」を引き起こすのは不可能である。

ただ、この種の技術は急速に普及・低コスト化が進むのが過去のパターンであり、その発展可能性が数値で明確に示された意味は大きいだろう。今回報告されたシェールオイルの埋蔵量は、今後10年の原油需給をカバーできるに足る規模となっている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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