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東京金価格、1ヶ月ぶりの高値更新

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

東京商品取引所(TOCOM)の金先物相場(期先継足)は、7月22日高値が1グラム=4,258円に達し、6月17日以来となる約1ヶ月ぶりの高値を更新した。

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6月の金価格は、米量的緩和政策(QE)の縮小・出口が近いとの見方からドル建て金価格が急落したことに加え、為替相場で円高圧力が強くなったことを受けて、28日には一時3,750円まで急落していた。しかし、7月は総じて戻り歩調を形成しており、急落傾向に一応の歯止めが掛かった形になっている。安値からの上昇幅は508円(13.5%)に達しており、1kgのインゴットだと375万円だったのが425万8,000円まで、僅か1ヶ月で50万8,000円も値上がりした計算になる。

こうした金価格の反発について、通常のメディアでは、1)アジア地区を中心とした現物需要の拡大、2)米金融緩和の継続期待、という二つのロジックから解説するのが一般的である。

「1)アジア地区を中心とした現物需要の拡大」とは、金価格の急落を受けて現物需要が高止まりしていることである。4月の急落時に見られたようなパニック的な買い付けは行われていないが、上海現物市場などでは断続的に高水準の買い付けが報告されている。一方、中国国内では輸入割当枠不足や精錬所のメンテナンスによって、高止まりする需要に対して供給能力が不足した結果、アジア地区の需給が急激に引き締まっている。一時期は、ロンドン市場で1オンス=1,200ドル前後で取引されていた際に、上海市場では35~40ドルものプレミアムを払わなければ金現物が入手できない事態に陥っている。

当初はアジア地区に限定された動きと見られていたが、金リースレートの急伸、金フォワード・レート(GOFO)の急低下といった形でロンドン現物市場にもその影響が波及すると、投機売りと現物買いのパワーバランスが均衡し始めたとの見方から、売り方ファンドがショートカバー(買い戻し)を迫られている。これは、7月10日付けの「金リースレートがリーマン後の最高値を更新 ~金価格の反転リスク~」で解説した通りである。

次に「2)米金融緩和の継続期待」であるが、これはバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が7月17~18日の議会証言において、量的緩和政策の縮小・停止時期について必ずしも積極的な態度を示さなかったことに対する安堵感である。

同議長は、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見と同様に、年後半の資産購入縮小、来年半ばの資産購入停止をメインシナリオとして提示している。ただ、あくまでも今後の金融政策は景気動向次第という形でフリーハンドの確保を強調したことで、予想していた程に緩和策の縮小に積極的ではないとの評価が優勢になっている。また、資産購入の停止後も高水準の資産保有を継続することや、ゼロ金利政策の長期維持方針が示されたことも、金価格に対してはポジティブである。

これによって「米金利上昇・ドル高→ドル建て金価格下落」というフローにブレーキが掛かった形になり、売り方ファンドに当面の利益確定を迫ったことが、金価格の反発を促している。

■金価格と原油価格との断ち切れない関係

以上の二点は極めて重要な視点であるが、7月の金価格上昇に関しては、それよりも原油価格高騰の影響が大きいと考えている。

エジプト情勢の緊迫化に加えて、米国内原油在庫の急激な減少を受けて、NY原油先物相場は年初から続いてきた1バレル=85~100ドルのボックスをブレイクして、足元では105~110ドル水準まで値位置を切り上げている。こうした原油高に先導される形で、コモディティ価格の指標となるCRB商品指数は6月28日の275.54をボトムに、7月19日には291.88まで急伸し、4月3日以来の高値を更新している。

バーナンキFRB議長は18日の議会証言において、「金価格の値動きはインフレの先行きをそれほど正確には予測していない」(参考:バーナンキFRB議長、「金価格は誰も理解できない」)と喝破したが、金市場参加者は依然としてインフレの先行指標となる原油価格やCRB商品指数などの動向に対して極めて敏感である。原油価格やCRB商品指数の上昇は、「通貨としての金」の購買力低下を意味することで、バランス修正のための金価格の値上がりが要求されるためだ。

例えば、1オンスの金でどれだけの原油を購入できるのかを調べてみると、7月は11.89~12.78バレルのレンジで推移しており、ほぼ横ばい状態になっている。すなわち7月の金価格の反発は、単純に原油価格の上昇分を織り込んだに過ぎない可能性が高いのだ。

トレンドとしてみれば、今年は金1オンスで購入できる原油の量が急激な減少傾向にある。年初の段階では金1オンス=原油18バレル前後で取引されており、金の原油購買力は半年で約三分の二の水準まで落ち込んでいる。ドルの通貨価値を正常化に向かわせる動きが活発化する中、代替通貨としての金の購買力も正常化に向かっていることが窺える。この流れは、今後も継続される可能性が高い。ただ、金融政策を巡る議論が膠着化した局面や、ドル相場の値動きが鈍化した現在のような局面では、金価格の決定要因としての原油価格動向の重要性が増すことになる。

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当然に、金価格は原油価格のみをトレースする訳ではないが、東京金価格が1ヶ月ぶりの高値を更新した背景としては、原油価格高騰の重要性を強調しておきたい。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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