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10月からの牛乳値上げ決定、1リットル=10円程度か

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

雪印メグミルクは8月2日、牛乳など乳飲料の合計29商品について、10月1日から出荷価格を1~4%値上げすると発表した。既に明治と森永乳業も同日からの値上げを発表しており、これで牛乳大手3社の同時値上げが確定した。

雪印メグミルクのプレスリリースでは、「昨今の穀物相場・外国為替をめぐる情勢から、配合飼料価格は値上がりし、酪農家の経営環境は厳しい状況が続いております。この様な状況の中(中略)平成25年10月より飲用向け生乳取引価格を1kgあたり5円引き上げることで合意しました」、「自助努力による吸収可能な範囲を超える水準であるため、牛乳等の出荷価格改定を実施させていただくこととしました」と発表している。

要するに、穀物相場高と円安によって配合飼料価格が高騰しているため、生乳の仕入れ価格を引き上げざるを得ず、それを一般向けの出荷価格にも転嫁するということである。

このロジックは他の牛乳大手も同じであり、明治は「海外穀物相場の高騰等により、輸入飼料価格が大幅に上昇」(7月23日)、森永乳業は「飼料となる穀物などの価格高騰により生産経費が増大し」(7月25日)と解説している。

各社とも値上げ幅は大差ないとみられ、メルミルクの場合だとメーカー希望小売価格が1リットル=260円から270円程度まで上昇すると予測される。毎日1リットルを消費しても月間300円程度の負担増に留まるが、他にも味の素がマヨネーズを3~9%、冷凍食品を8~15%値上げすると発表するなど、食品や生活用品分野で値上げ圧力が目立つだけに、注意が必要な状況になっている。

■配合飼料価格は過去最高を目指す

では、牛乳大手各社が値上げの要因として指摘している配合飼料価格は、どのような状況にあるのだろうか。

配合飼料とは、家畜用の餌用に様々な原材料を配合・加工して作られるものだが、概ね半分程度がトウモロコシとなっており、そこに大麦や小麦、大豆粕、魚粉、リン酸カルシウムなどを用途に応じて配合して使用されている。

このため、トウモロコシ価格動向を見るとトレンドの把握が容易だが、東京商品取引所(TOCOM)の米国産黄トウモロコシ(期近物)の場合だと、今年は1トン=2万5,000~3万5,000円をコアレンジに推移しており、過去最高値(4万4,860円)を記録した08年に次ぐ高騰相場を迎えている。09年や10年は総じて1万5,000~2万5,000円での取引となっていたが、そこから40~65%程度値上がりしていると理解すると分かり易い。

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昨年に米国で半世紀ぶりの干ばつ被害に見舞われたのが象徴的だが、世界各地の異常気象の影響で穀物生産が予想されていた程に拡大しない中、世界的な在庫逼迫化が穀物相場の高止まりを招いている。それが、めぐり巡って日本の牛乳価格値上げにつながった形である。

もう少し、詳細に配合飼料価格をみてみよう。

農林水産省が発表している配合飼料価格(乳牛飼育用)によると、6月時点では1トン=7万1,110円に達しており、08年12月以来で最高を記録している。前年比では15.7%に達している。牛乳生産のコストに締める飼料費の比率は45.2%に達しているため、これだけで生産コストは前年比で7.1%の上昇する計算である。しかも、7~9月期の生産コストは08年の水準を上回ることが予測されており、農林水産省が配合飼料価格高騰緊急対策をまとめるなど、対策を急がれている。少なくとも秋までに飼料価格の値下がりシナリオが描けない状況にあることも、牛乳メーカーが値上げに踏み切った一因だろう。

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一方、総合乳価は6月が10kg=893円となっているが、これは前年同月比で+1.7%の上昇に過ぎない。季節要因から夏場に価格上昇圧力が強まり易いものの、ここ数年は900円前後での取引が続いており、昨年後半からの飼料価格急騰局面では、逆に値下がりプレッシャーが見られたのが現実である。

この飼料価格と乳価のかい離が維持できなくなったことが、畜産業者からの値上げ要請、そして消費者への価格転嫁という動きである。

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■トウモロコシ価格は軟化気味

もっとも、ここにきてシカゴのトウモロコシ先物相場は急落し始めているため、穀物相場高を理由に牛乳価格に値上げプレッシャーが強まる展開は回避できそうな状況にある。シカゴのトウモロコシ先物相場は、現在1Bu=500セント台を約3年ぶりに割り込んでおり、昨年の過去最高値(849.00セント)から45%を超える急落となっている。

今年も世界各地で異常気象が報告されているが、米国に限定するとホット・アンド・ドライ(高温乾燥)と言われる生産障害型の天候は観測されておらず、総じて農産物の生育に適した気象環境になっているためだ。

現在、日本のスーパーでは食用トウモロコシの新物が出回り始めているが、飼料用が生産される米国では7~8月が受粉期であり、9~10月にかけて収穫が開始されるのが例年のパターンである。今年は過去最大の作付面積を確保できているだけに、このまま天候トラブルがなければ米国内在庫は05/06年度以来で最大、世界の在庫も01/02年度以来の高水準に達することが予測されている。

このため、今後も飼料価格や牛乳価格に対する急激な値上げプレッシャーが続くとは考えていない。ただ、トウモロコシ相場は下がったといっても2000年代前半の2~3倍水準となる。食品価格は何もなければ高値安定、何か生産トラブルが発生すれば高騰という綱渡り状態が続くことになる。

今回の牛乳価格値上げは、昨年の米国における記録的な干ばつ発生の代償を支払っている段階とみている。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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