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原油相場は再び下落する、ゴールドマン・サックスの警告

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

米金融大手ゴールドマン・サックス・グループのコモディティ調査部門は2月19日、今後6ヶ月で原油相場が1バレル=39ドルまで下落するとの従来予想に変化はないことを確認した。

NYMEX原油先物相場は、昨年6月13日の107.68ドルをピークに今年1月29日の43.58ドルまで、最大で64.10ドル(59.5%)の下落幅を記録している。しかし、2月は50ドル台前半までの切り返しを見せていることで、マーケットでは原油相場の底打ち論も徐々に勢いを増し始めている。

今週は、国内でもレギュラーガソリン店頭価格(2月16日時点)が約7ヶ月ぶりに値上がりしており(参考:ガソリン価格の値上がりは続く?)、多くのドライバーが給油時期を先送りした方が良いのか、前倒しした方が良いのか判断に迷っていることだろう。

こうした中、ゴールドマン・サックスの価格見通しを前提にするのであれば、ガソリン価格の上昇に備えて、慌てて給油する必要はないということになる。

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■石油リグ数減少でも始まらない減産

2月の原油価格反発は、主に米石油リグ稼動数の減少データに反応したものである。米ベーカー・ヒューズ社が週次単位で石油リグの稼動状況をレポートしているが、これによると昨年10月以降で米国内の石油リグは3割以上が稼動を停止しているため、いよいよ原油相場急落にシェールオイル開発業者がギブアップし始めたとの見方が、原油相場の底打ちムードを促していた。

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しかし、現実には米シェールオイルの増産傾向は石油リグ数の減少開始から4ヶ月が経過した現在も進行中であり、直近の2月6日の週の米産油量は日量922.6万バレルと、前年同期の813.2万バレルを100万バレル以上も上回った状態が維持されている。

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原油相場の強気派は、それでもこのまま石油リグ数の減少が続けば、間もなく減産が始まるだろうとこの状況を楽観視していた。しかし、実際にはシェールオイルの生産性向上はリグ数減少のショックを完全に相殺しており、ゴールドマン・サックス社は「石油リグ稼動数は、生産拡大に歯止めを掛けられるレベルまで減少していない」との分析を行っている。今週に入ってからは、これと同様の見方がUBSやバンク・オブ・アメリカ(BOA)、コメルツ銀行などからも相次いで発表されており、この時期のこの価格から、原油相場が本格的な上昇トレンドを形成できるのか、疑問の声が強まり始めている。

実際に、米原油在庫は未だに急増傾向が続いており、前年同期の3億6,140万バレルに対して、直近では4億1,790万バレルに達している。BOAは、米国内の原油貯蔵能力が限界に近づく中、生産者はディスカウントを迫られる可能性までも指摘している。

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ゴールドマン・サックス社は最近の原油高を「行き過ぎ」、UBSは「ファンダメンタルズ(需給)ではなくセンチメント(投資家心理)に基づいている」と喝破しており、徐々に原油相場の下値不安が高まっている。NYMEX原油先物相場は、2月19日の取引で一時的にではあるが前日比-3.00ドルの49.82ドルまで急落し、50ドルの節目割れを試す動きを見せている。

中長期的にはボトム圏が意識される価格水準であり(参考:原油価格の急落は終わったのか?)、今回弱気見通しを発表したゴールドマン・サックス社も、従来見通しの70ドルからは下方修正だが、今後1年の価格見通しは65ドルとしている(1月時点)。ただ、原油相場が完全に底入れするためには、なお安値で生産調整を促すことが要求されそうだ。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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