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リーマンショック後の最安値に近づく原油価格

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

国際原油市場では、「lower for longer(より長期にわたる価格低下)」との新しいマントラが鳴り響いている。国際エネルギー機関(IEA)が8月12日に公表したマンスリーレポートの中の一節である。

国際原油相場は、昨年前半までは1バレル=100ドル前後の価格水準が通常の価格とされていたが、中国を筆頭とした新興国経済の減速とシェールオイルなどのいわゆるタイトオイルの増産ペース加速が重なる中、急激な需給緩和圧力を背景に今年1月には50ドルの節目も割り込む急落相場になった。価格低下によって、需要を刺激すると同時に供給を抑制することで、改めて国際原油需給バランスの均衡状態を実現する必要性が高まった結果である。

実際に、IEAによると今年の世界石油需要は前年比で日量160万バレル(1.7%)もの急激な伸びが想定されており、需給バランスの調整(=需給リバランス)が始まっていることは間違いない。また、昨年後半の原油相場急落で米国内の石油リグ稼動数はピーク時の4割水準まで落ち込んでおり、シェールオイルが原油価格の低迷に耐えられなくなったとの見方も、原油需給均衡化への期待感を高めていた。その結果が、3月17日の42.63ドルをボトムに5月6日の62.58ドルまで至る、約20ドル幅の原油価格急伸である。

これによってマーケットでは原油需給リバランスの進展によって、原油相場は底打ちしたとの見方も広がっていた。だが実際には石油輸出国機構(OPEC)が改めて増産圧力を強める中、国際原油需給バランスは逆に緩和方向に傾いている。例えばIEAの試算によると、今年4~6月期には日量303万バレルの供給「過剰」が発生しているが、これは前年同期の供給過剰124万バレルを遥かに上回っている。すなわち、昨年の原油相場急落を以ってしても、国際原油需給の引き締まりは実現しなかったのである。

加えて、イラン核合意を受けてイラン政府は制裁解除後の1ヶ月で日量100万バレルの増産が可能との自信を示している。更に、米国ではシェールオイルのリグ稼動数が増加傾向に転じ始めており、早くもシェールオイルが原油安に対応し始めたとの危機感も広がっている。

従来は、2016年のいずれかの時点で需給リバランスは実現し、原油相場はその程度の議論はあっても反発傾向に向かうとの見方が支配的だった。しかし、IEAは2016年も国際原油需給の緩和状態には変化が生じないリスクを指摘しており、それが原油価格がどこまで下落するのか、いつまで下落するのか分からないとの不安心理を広げている。これを象徴するワードが、冒頭で紹介した「lower for longer(より長期にわたる価格低下)」となる訳だ。

8月13日のNYMEX原油先物相場は3月17日の安値42.63ドルを下抜き、年初来安値を更新した。これは2009年3月4日以来の安値である。なお原油価格は下値切り下げ傾向を維持していることが再確認されたが、その先にあるのはリーマンショック後の最安値である33.55ドルになる。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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