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シェール減産でも原油安再開の怪?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

原油価格が再び下落している。NYMEX原油先物相場は、10月9日の1バレル=50.92ドルをピークに、足元では43ドル台前半から中盤まで値下がりしており、9月2日以来となる8週間ぶりの安値を更新している。こうした原油安再開の理由としては、以下の5つの理由を考えている。

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理由1)シェール減産でも過剰供給は解消されず

9月以降の国際原油市場では、原油相場の低迷が米国のシェールオイル生産体制に大きなダメージを与える中、原油価格の底打ち論が多く見掛けるようになっていた。米国の石油リグ稼動数は、8月28日の675基をピークに、その後は8週連続の減少で、直近の10月23日時点では今年最低の594基まで落ち込んでいる。また、米国の産油量も6月5日時点の日量961万バレルをピークに、足元では910万バレル水準まで減少している。原油相場の低迷に耐えられなくなったシェールオイル開発業者が、シェールオイルの生産から撤退する動きを強めているのは明らかであり、これ以上の原油安を進めなくても過剰供給の解消は可能との見方が、原油価格の回復を促していた。

しかし、国際エネルギー機関(IEA)は、需要拡大ペースの鈍化やイラン市場復帰を理由に、「2016年を通じて過剰供給が続く可能性が高い」との見方を示し、マーケットに広がっていた楽観ムードに水を差した。即ち、シェールオイル生産が鈍化していることを前提にしても、まだ供給量は過剰との冷静な評価が広がったのである。

理由2)米国で原油在庫が急増中

加えて、米国では製油所メンテナンス時期を迎える中、原油在庫の急増が報告されている。8月21日時点では4億5,100万バレルだったのが、直近では4億7,700万バレルに達しているが、これは前年同期を約1億バレル上回っている。この時期に原油在庫が増えるのは季節パターンに沿ったものだが、それでも余りに膨大な原油在庫が報告される中、原油価格の反発期待が急速に後退している。原油価格が回復するには、供給過剰解消後に更に膨大な在庫を取り崩す必要性が高いことが再認識される中、仮に原油価格が底を打ったのが確かとしても、反発余地は大きくないとの悲観的な見方が広がっている。

産油国サイドでも、サウジアラビアの原油在庫は7月以降で640万バレル、前年同期比だと4,000万バレルも増加しているといった報告もあり、記録的な高水準に達した在庫が、今後も原油相場の上値を圧迫し続けるリスクが警戒されている。

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理由3)OPECは市況対策に動かず

国際通貨基金(IMF)が5年以内にサウジアラビアの金融資産が枯渇するリスクを指摘するなど、産油国経済が疲弊しているのは間違いない。特に、経済構造が脆弱なベネズエラが協調減産に向けての調整を積極的に行っている。しかし、10月21日に開催された石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国の共同会合では、産油国サイドの目標価格である「プライスバンド」の設定や、協調減産を巡る議論は進まず、産油国サイドは打つ手なしの状態にあることが露呈している。

OPEC加盟国、非加盟国が協調減産に踏み切れば、少なくとも一時的には原油価格を押し上げることが可能である。しかし、原油価格の回復はシェールオイルの増産再開を促すのが必至のため、なお伝統的な産油国は原油需給・価格に対する介入に慎重姿勢を崩していない。12月にはOPEC定例総会が控えているが、産油国は動かない(もしくは動けない)との悲観的な見方も、原油価格の下押しに安心感をもたらしている。

理由4)イラン核合意の進展続く

また、イラン核合意が履行に向かっていることで、地政学的リスクが一段と低下していることも、原油価格にはネガティブ。イランと欧米など6カ国は7月14日に核問題の包括的解決で最終合意したが、10月13日にはイラン国会が最終合意の内容を承認する法案を可決している。これによって、イランの核開発についての進展が期待できる状況になっており、その先には当然にイラン産原油取引に対する規制緩和の流れが想定される。イラン当局者は、日量50万~100万バレル規模の増産に自信を示しており、IEAも2016年に70万バレル規模の増産が可能との見通しを示している。過剰供給環境が続く中で、これだけの規模の追加供給をどのように受け入れるのかが、原油市場関係者の頭を悩ませている。

理由5)ドル高再開の衝撃

更にタイミングが悪いことに、世界の中央銀行が追加金融緩和を模索する中、投機マネーはドル回帰の動きを見せており、通貨要因でもドル建て資産価格に対しては下押し圧力が強まり易くなっている。世界経済の減速で米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ着手時期も見通しづらくなっているが、ドルの相対評価は依然として強気であり、原油に限らずコモディティ市場全体で「ドル高→ドル建てコモディティ価格下落」のフローが観測されている。原油とドル相場との間には強い逆相関関係が存在しており、ドルの地合いの強さが再確認されていることが、そのまま原油相場の上値を強力に圧迫している。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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