英EU離脱で金に逃げる投資家
イギリスの欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票では、離脱を求める票が残留を求める票を上回り、離脱が決定的になった。国際金融市場ではイギリスのEU離脱で何が起きるのか分からないとの不安心理が広がる中、まずは安全性の高い資産に資金を移し、購買力を防衛しようとする力が働いている。大きなリターンを求めるのではなく、どの資産を持っていれば、最もダメージが少ないのかという防衛行動が最優先されている訳だ。
こうした中、安全資産の代表格である金(ゴールド)の価格が急伸している。COMEX金先物相場は、6月23日終値時点で1オンス=1,263.10ドルで取引を終了していたが、アジア時間には一時1,360.10ドルまで急伸している。前日比では97.00ドル(7.7%)高であり、6月16日に付けた今年最高値1,318.90ドルを上抜き、2014年3月以来の高値が更新されている。
事前の世論調査では若干ながら残留派の優勢が確認されていただけに、市場関係者が受けた衝撃は大きかった。残留派が優勢と言ってもその差は僅か数ポイントであり、残留を前提としてリスク資産買いの動きには危険との指摘も少なくなかった。だが、英EU離脱の国民投票に関しては、その結果を予測するツールが世論調査しか存在しなかっただけに、最も確率の高いシナリオが英EU離脱回避であり、それを前提にすればリスク資産買い・安全資産売りを先取りするのは合理的な投資判断との見方の方が優勢だった。
しかし選挙や国民投票では予期せぬ結果も珍しくはなく、今回も事前の世論調査は見事に外れた。これが地方議員の選挙などであればそれほど大きな問題ではないが、今回はEUという欧州の枠組みそのものを否定する動きであり、イギリスのEU離脱が大きな混乱なく進むのか、欧州や世界経済、金融市場にどのような影響が生じるのか、世界の資金の流れに不測のトラブルが発生しないかなど、様々な影響を警戒する必要がある。
もしかしたら世界経済も金融市場も、この英EU離脱イベントを大きなトラブルなく無難に消化できるのかもしれない。ただ、「何か」が起きる可能性も想定しておく必要があり、その受け皿として金市場が再び注目を集めている訳だ。イギリスでは従来からドルの他に金貨やビットコインなどでポンドの価値低下(=購買力低下)に備える動きが観測されていたが、それがグローバルな規模に発展しているのが現在の国際金融市場である。
円高の影響で東京商品取引所(TOCOM)の金価格は、1グラム当たりで前日比85円高の4,323円と特別に大きな値上がりになっている訳ではない。しかし、為替市場で安全性の高いとされる円相場が急伸しているのと同様に、現在は様々な資産を金(ゴールド)に変えて、英EU離脱という嵐が過ぎ去るのを待とうとする向きが多い。その意味では、金価格が落ち着きを取り戻した時が、国際金融市場が英EU離脱問題の消化が山場を越えたと判断した時と言えそうだ。