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OPEC減産合意でも原油価格が上げきれない三つの理由

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

石油輸出国機構(OPEC)は9月28日の臨時総会(当初は非公式会合として開催)において、日量3,250万~3,300万バレルの産油ターゲットを導入することで合意した。これまで原油需給の緩和、原油価格の低迷に対して、OPEC単独で対応には限界があるとして政策介入を見送り続けていたOPECが、改めて原油需給と価格のコントロールを志向する方針を示したのは極めて大きな変化である。

マーケットでは従来の原油高の時代に回帰するとの期待感も強くなっており、OPEC総会前の1バレル=45~47ドル水準に対して、10月中旬には50~52ドル水準までコアレンジを切り上げることに成功している。ただ、OPECが原油需給・価格コントロールを放棄する以前の100ドル前後の値位置回復を打診するような動きは鈍く、OPECの政策介入決定を受けて確かに原油価格は上昇したものの、上昇相場が決定的になったとまでは言えない状況が続いている。

実際に、世界銀行(World Bank)の最新の四半期レポートでは、原油価格見通しについて2016年が43ドル、17年が55ドルとされており、3か月前との比較ではそれぞれ0.3ドルと2.0ドルの上方修正に留まっている。即ち、今回のOPECの政策介入決定については、来年の原油平均価格を2ドル引き上げる程度の効果が認められる状況に留まっている。また、国際エネルギー機関(IEA)も「少なくとも2017年上期までは過剰供給が続く」との従来見通しを維持している。

確かにOPECが政策介入を決定したことは原油価格に対してポジティブだが、なぜ本格的な原油高実現には不十分と評価されているのだろうか。

理由1:政策対応の規模が小さい

最も大きな理由は、そもそも今回合意された政策介入の規模が、原油需給の均衡化を実現するために十分な規模なのかが疑問視されていることだ。

OPEC調査部門の推計では、8月時点のOPECの産油量は日量3,324万バレルとなっており、新たに設定された産油ターゲット3,250万~3,300万バレルを実現するためには、24万~74万バレルの減産で十分な計算である。一方、OPEC産原油に対する推定需要は2017年通期で3,248万バレルとなっており、今回の合意内容は最大限の生産調整を行って、初めて17年通期での需給均衡化をもたらすレベルに留まることになる。季節要因からは17年上期は供給過剰状態が持ち越されることになり、17年後半になって初めて需給バランスが均衡化する可能性が浮上するのに留まる。

理由2:OPECの政策合意の実現性に対する疑問

OPECが9月28日に合意したのは、あくまでもOPEC全体としての産油量ターゲット設定である。今後は11月30日のOPEC定例総会に向けて、各国に個別の産油量を割り振る必要がある。しかし、総論では減産や増産凍結に理解を示しても、自国が減産や増産凍結を行う各論部分では、合意形成が順調に進むのかは不透明感が残されている。

地政学的要因によって減産対応を迫られているイラン、ナイジェリア、リビアなどが増産(=生産回復)の権利を主張するだけで、産油量ターゲットの設定は一気に難しさを増すことになる。11月のOPEC総会前に少なくとも二回のハイレベル協議が予定されているが、本当に各国の生産割り当てが実現するのかを見極めたいとする向きが多い。

更には、OPEC加盟国が主張する産油量と、外部機関調査の産油量の数値には大きな違いが存在するため、そもそも日量3,250万~3,300万バレルの産油ターゲットはどの数値を採用するのかについても、合意形成は難しい。両者のギャップを利用して、減産で合意しつつも実際の産油量は逆に上振れするような事態も想定しておく必要がある。

理由3:OPEC非加盟国の協力は得られるのか?

上述のように、今回のOPECの合意内容が完全履行されても、原油需給の均衡化実現には不透明感が残る。こうした中、ロシアやメキシコ、ブラジルといったOPEC非加盟国の協調も得ることができれば、OPECの政策対応の負担は軽減され、国際原油需給の均衡化が実現する可能性は高まる。

しかし、ロシアのノバク・エネルギー相は10月21日、2017年の同国産油量がソ連崩壊後の最高を記録する方針を示している。ロシアからは、原油価格を刺激するために増産凍結や減産対応の必要性を指摘する声が相次いでいるが、こうした中で17年の増産方針を打ち出したことで、その真意が読みづらい状況になっている。

◆市場はOPECの政策対応効果に懐疑的か

これら三つ要因を考慮すれば、OPECが更に減産幅の積み増しを行い、加盟国の生産割り当てが順調に消化され、ロシアなど非OPECの協力が確実に得られる状況になれば、再び原油高が勢いづく可能性もある。しかし、50ドル台回復後の原油高のペースが鈍化していることからは、OPECの政策調整決定は間違いなく原油価格に対してポジティブではあるが、それが本当に国際原油需給の均衡化、そして原油高の事前に寄与するのかは、なお懐疑的な市場参加者が多いことが窺える。

仮に今回のOPECの合意内容が不十分との見方がコンセンサスになれば、改めて原油価格を安値誘導することで、OPEC加盟国・非加盟国から追加の施策を引き出す動きが活発化することもある。OPECとしてはマーケットの期待を裏切らない形で原油需給の均衡化・原油高への期待感を高めていくことが要求され、改めてOPECの市場管理能力が問われる局面を迎えている。

【NYMEX原油先物相場】

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(出所:CME)

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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