矛盾だらけの異次元緩和
日銀の当座預金残高が17日に69兆7200億円となり、過去最高を記録し約70兆円近くとなった。岩田規久男日銀副総裁は、就任前のインタビューにて、「インフレ率を2%にするためには、日銀当座預金を昨年末の約40兆円の倍、70~80兆円にすべきだ」と述べていた。
4月4日の金融政策決定会合で決めた量的・質的金融緩和策では、マネタリーベースが、年間60~70兆円に相当するベースで増加するよう金融市場調節を行うとしていた。年間60~70兆円というのはマネタリーベースの増加ベースとなり、2012年末のマネタリーベースの実績138兆円規模が、2013年末が200兆円、2014年末が270兆円となる。
岩田副総裁の発言が正しいとすれば、このピッチでのマネタリーベースの増加(増加分のほとんどは日銀当座預金)では、インフレ率は2%どころではなく跳ね上がりかねないのではなかろうか。
それ以前にすでに日銀の当座預金残高が、昨年末の倍近いところまできているが、それで何かしら物価上昇に波及しうる兆候が出ているのであろうか。タイムラグはあるにせよ。
アベノミクスの登場以降の円安・株高がその大きな兆候だという人もいるかもしれない。これには「期待」への効果は確かにあったかと思うが、それは果たしてマネタリーベースの増加が影響していたものなのか。そもそもどれだけの人が日銀の当座預金残高に関心を持っていようか。
日銀はコアCPIの2%という物価目標に対して、2年程度の期間を念頭に置いて、早期に実現するとしている。26日に発表される展望レポートでは、2年後に2%の物価目標が達成しうるという予測が示されると予想される。
2年で2%の物価上昇は達成できるのかとの質問に対して、宮尾審議委員は会見で次の発言を繰り返していた。
「今回、私どもは2年程度の期間を念頭において、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために今回の「量的・質的金融緩和」というパッケージを決定し、実行に移したということです。」
まったくこれは答えになっていない。会見前の講演ではその道筋を示してはいたが、そのポイントには、世界経済の安定化、それによる世界経済の回復基調を背景にあげている。リーマン・ショックや欧州の信用不安という大きなショックの後退により、世界経済の回復が日本経済にも影響を与えるとしている。つまりは異次元緩和があっての2%の物価上昇という前提になっていない。
宮尾審議委員を含めて、六名の審議委員が26日の展望レポートでコアCPIの予想を大きく引き上げたならば、その理由の説明が求められる。宮尾委員の会見では、記者から2%の目標は2年程度で達成できるという事に関し、「宮尾審議委員が何故ここでご自身の考えを述べないのか、よく分かりません。」ともコメントしている。この点についての説明責任も審議委員には求められるはずである。
さらにこれまでの日銀の考え方を踏まえた上で、今回の異次元緩和がどのように物価に波及するのかの経路について、日銀プロパーであり、これまでの日銀の政策にも携わってきた中曽副総裁の意見も聞きたいところである。
債券市場にも異次元緩和の影響が及んでいるが、すでに生保や年金、地方の金融機関などが国債投資を減少させるとの見方も強まっている。それでなくても国債発行額のうちこれまでの4割弱から7割強を日銀が買い入れることで、債券市場の実質的な規模が縮小し、参加者も減少するとなれば、その機能低下による影響も考えておく必要がある。
高橋是清は日銀による国債引受を行ってはいたが、それは当時の国債の流通市場が整備されていなかったこともあり、日銀はいったん引き受けた国債を銀行に売却していた。今回、日銀はあくまで買い入れるだけが目的となっている。国債の市場機能を低下させて、その結果、イールドカーブは全体に低下するどころか、いびつな動きになりかねない。それでどのように実態経済に働きかけられるのか、このあたりの説明もほしいところである。