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日本の投資家による外債売り越しは続く

久保田博幸金融アナリスト

財務省が発表した6月の対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベース)によると、対外証券投資の中長期債では、2兆9578億円の売り越しとなり、これは過去最大の売り越しとなったようである。

日銀が異次元緩和を決定した4月における国内投資家による海外の中長期債投資は1兆7154億円の売り越し、5月は2兆1518億円のそれぞれ売り越しとなっていた。

投資部門別でみると、5月は銀行部門が2兆4314億円の売り越しとなっており、生保も213億円の売り越しとなっていた。

国内投資家による海外債券の売り越しの要因は、欧州の信用不安の後退により、安全資産として購入していた米国債などを売却してきたこととみられる。FRBが量的緩和政策の縮小に動くとの観測により、米国債の利回りが大きく上昇しており、それも意識しての売却と思われる。

日銀による異次元緩和のトランスミッション・メカニズム(波及経路)には、日銀が大胆な国債買い入れを行って、国債のイールドカーブ全体の金利低下を促す効果、ポートフォリオ・リバランシングの効果、さらには期待を通じた効果を日銀は指摘していた。

国債のイールドカーブ全体の金利低下を促すことにはできておらず、日本の日本の長期金利は4月5日中に0.315%から0.620%に上昇し、5月23日には1%まで上昇した。その後は0.8%台主体の動きとなり、利回り上昇はいまのところ抑制されている。しかし、米国の長期金利は2.7%台に上昇するなどしており、日本の長期金利も再び1%台に乗せてくる可能性もある。日銀はこれに対して、名目金利ではなく実質金利の低下を促すと表現を変えてきている。

ポートフォリオ・リバランシングの効果とは、日銀が銀行などの保有している国債を買い入れることで、よりリスクのある資産の購入を促すというものである。これには外債投資を促し、為替にも働きかけるとの意図もあったとみられる。外債投資について国内投資家は購入するどころか、大きく売り越している状況にある。ただし、株式市場はいったん調整後、再び上昇基調となっているが、最近の上昇は国内景気の回復とともに、海外市場要因に負うところも大きいとみられ、日銀の国債の大量購入が効いているとのイメージではない。

三番目の波及経路である期待に働きかけるという面では、アベノミクスへの期待が円安・株高の背景とひとつとなっているのかもしれないが、日銀が大量の国債を購入することによる効果よりも、海外のリスク要因の後退とそれによる円安がかなり影響しているものと思われる。

アベノミクスによる効果を完全に否定するものではないが、その柱となっている異次元緩和に関する波及経路については、当初の日銀による説明からすれば意図していたものとは異なったものとなっている。それでも足下景気が回復しており、株価もしっかり、長期金利の上昇も抑制されているので問題ないとの見方もできるかもしれない。結果良ければすべてよし、なのか。

FRBはすでに出口に向けて動きを見せている。日銀だけが取り残され、かなり無茶な目標設定(2年以内でコアCPI2%)とそのための異次元緩和策を継続するとなれば、今後はその弊害が表に出てくることも予想される。何故意図した効果が出ていないのか、そのあたりを見極め、今後の政策に生かすこと、つまりは軌道修正もいずれ必要となるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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